
先日、令和7年度の地域別最低賃金額改定の目安が示されましたね。最低賃金の上昇は、働く人にとっては嬉しいニュースですが、「公定価格で運営している介護事業所はどうなるの?」「特に訪問介護の給料は大丈夫?」と心配されている方も多いのではないでしょうか。
今回は、厚生労働省の資料をもとに、訪問介護事業所における労働時間と賃金の考え方、そして最低賃金上昇がもたらす影響について、分かりやすく解説していきます。
1. 訪問介護の「労働時間」ってどこからどこまで?
訪問介護事業所では、登録ヘルパーと呼ばれる非常勤の働き方が多く、労働時間の考え方が少し複雑になりがちです。厚生労働省は、訪問介護事業所における労働時間の考え方を明確に示しています。
労働時間とみなされるのは、原則として**「使用者の指揮命令下に置かれている時間」**です。具体的には、以下の時間が労働時間として考えられます。
- サービス提供時間: 利用者宅で実際に介護サービスを提供している時間。
- 移動時間:
- 事業所から利用者宅への移動、または利用者宅から次の利用者宅への移動は、原則として労働時間とみなされます。これは、事業所の指揮命令下で移動していると解釈されるためです。
- 直行直帰の場合も、事業所の指示で移動していれば労働時間となります。
- 待機時間:
- 次のサービスまで時間がある場合でも、事業所からの指示があればすぐに対応できる状態で待機している場合は、労働時間とみなされます。
- しかし、自由に過ごせる休憩時間や、次のサービスまでかなりの間隔があり、事業所の指揮命令下にない時間(買い物や私用を済ませる時間など)は労働時間には含まれません。
これらの時間をすべて合計して、時給に換算したときに最低賃金を下回っていないかを検証する必要があります。
2. 最低時給換算のチェックポイント✅
では、実際に訪問介護の賃金が最低賃金をクリアしているか、どうやって計算するのでしょうか?
最低賃金の対象となる賃金は、基本給と諸手当(職務手当、精勤手当など)です。しかし、以下の手当は最低賃金の計算には含まれません。
- 時間外労働や深夜労働、休日労働に対する割増賃金
- 精皆勤手当
- 通勤手当
- 家族手当
例えば、ある登録ヘルパーが、1日の労働時間(サービス提供+移動+待機)が合計4時間で、日給が4,500円だったとします。
この場合、時給換算すると「4,500円 ÷ 4時間 = 1,125円」となります。
もし、この地域の最低賃金が1,100円であれば、基準を満たしています。しかし、最低賃金が1,150円に上がった場合、このままでは最低賃金法違反になってしまうのです。
訪問介護では、サービス提供時間ごとに賃金が設定されていることが多く、移動時間や待機時間に対して別途手当が支払われていないと、時給換算したときに最低賃金を下回ってしまうリスクがあります。この点を事業所はしっかりと見直す必要があります。
3. 最低賃金上昇が訪問介護事業所にもたらす影響
最低賃金の上昇は、訪問介護事業所に様々な影響をもたらします。
- 賃金の見直しが必須に:
- 先述のように、時給換算で最低賃金を下回らないよう、基本給や手当の引き上げが必要になります。特に、移動時間や待機時間に対する賃金の支払い方を改めて検討する必要があります。
- 経営の圧迫:
- 介護サービスの価格である「介護報酬」は、国によって定められています。最低賃金が上がっても、介護報酬がすぐに上がるわけではありません。賃金アップの原資を、事業所が自力で捻出する必要があり、経営を圧迫する大きな要因となります。
- 人材流出の懸念:
- 介護事業所の給与が最低賃金の上昇に追いつけない場合、より高い賃金を支払うことのできる他産業(小売業、飲食業など)に人材が流出してしまう恐れがあります。これは、深刻な人手不足が続く介護業界にとって、さらなる打撃となりかねません。
- 生産性向上の必要性:
- 賃金アップを吸収するため、事業所は業務の効率化や生産性の向上をより一層求められます。ICTの活用や、サービス提供スケジュールの見直しなど、様々な工夫が必要になります。
まとめ
最低賃金の上昇は、働く介護職員の生活を支える上で非常に重要です。しかし、公定価格で運営する訪問介護事業所にとっては、経営の安定と賃金改善の両立が大きな課題となります。
国や自治体には、介護報酬の適切な引き上げや、事業所への支援策を講じることが強く求められます。そして、私たち事業所側も、労働時間の管理を徹底し、法律を遵守しながら、職員が安心して働ける環境を整えていくことが大切です。
介護の仕事は、なくてはならない社会のインフラです。職員の賃金が適正に評価され、やりがいを持って働き続けられるよう、業界全体で知恵を出し合っていきたいですね。
【インフォグラフィック】訪問介護と最低賃金
最低賃金改定が事業所にもたらす影響をビジュアルで理解する
令和7年度 全国加重平均時給(目安)
1,118円
(東京都1,226円)
過去最大の引き上げ幅となり、多くの事業所で賃金の見直しが急務となっています。
1. 訪問介護の「労働時間」とは?
サービス提供時間だけではありません。「使用者の指揮命令下にある時間」が労働時間とみなされます。
✅ 労働時間に含まれるもの
- サービス提供時間:利用者宅でのケア
- 移動時間:事業所⇔利用者宅、利用者宅間
- 待機時間:事業所からの指示ですぐ動ける状態
⚠️ 労働時間に含まれないもの
- 完全に自由な休憩時間
- 事業所の指揮下にない私用時間
2. 最低賃金クリア?時給換算の検証
全ての労働時間を合計し、時給に換算して最低賃金を上回っているか確認が必要です。
計算式
1日の賃金合計 ÷ 1日の労働時間合計 = 実質時給
例:日給4,500円 ÷ 労働4時間 = 1,125円
この例では、新最低賃金(1,118円)はクリアしていますが、余裕はありません。
3. 最低賃金上昇がもたらす経営への連鎖的影響
賃金見直し
移動・待機時間を含めた時給が最低賃金を下回らないよう、給与体系の再設計が必須に。
経営の圧迫
公定価格(介護報酬)は固定のため、人件費の増加が直接的に利益を圧迫する。
人材流出リスク
他産業との賃金格差が広がると、貴重な介護人材が他業種へ流出する懸念が高まる。
生産性向上へ
コストを吸収し事業を継続するため、ICT化や業務効率化への取り組みが不可欠となる。
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