介護と医療の境界を考える~介護職ができるサポートと、できない医療行為の線引き~

介護と医療の境目、そして介護職が安心安全に実践できる行為と、逆に医療資格を持たない場合には行ってはいけない医療行為について、2025年3月の「令和6年度老人保健健康増進等事業『原則として医行為ではない行為に関するガイドライン』」に基づいて、実際の介護現場での取り組みや連携につながるような内容をお届けします。


現代の高齢者ケアの現場では、介護と医療の役割がますます複雑化しています。介護現場で働く私たちにとって、どこまでが「介護行為」で、どこからが「医療行為」に該当するのか―これを明確に理解することは、利用者の安全を守るためにも、また自分たちの法的・倫理的責任を果たすためにも大変重要です。

1. 医療行為と介護行為の違いとは?

まず基礎として、医療行為とは医師や看護師など、医療資格を持った専門職が実施するべき高度な医学的判断・技術が求められる処置を指します。たとえば、注射、カテーテルの挿入、創傷の縫合などは、専門知識と技術、さらには緻密なリスク管理が必要な医療行為です。

一方、介護行為は、日常生活の支援や、非侵襲的な健康チェックを中心としています。たとえば、
• 血圧や体温の測定(専用の測定機器を用いる)
• 利用者の日常生活動作の補助(食事や移動、排泄、入浴の介助)
など、正しい手順と注意のもとで実施すれば、利用者の安全を損なうことなく行えるものです。

これらの線引きは、利用者がもしもの時に適切な医療介入がスムーズに行われるための、重要な基盤となっています。

2. 介護職が安全に行うことのできる行為

ガイドラインでは、介護職が実施可能な行為として、次のようなものが挙げられています。

  • バイタルサインの測定
    自動血圧計や耳式・非接触型体温計など、既定の方法に沿って血圧・体温を測定し、利用者の状態を把握すること。たとえば、家庭での血圧は135/85 mmHg未満、診察時は140/90 mmHg未満が適切とされる基準を参考にすることで、異常値に気づいた際には速やかに医療スタッフへ報告できる体制を整えます。
  • 日常生活の援助
    食事介助、服薬補助(医師の指示に従い、正しいタイミングでの補助を行う)や、排泄・入浴の介助など、利用者の日常の快適さと安全をサポートする活動。これらの行為は、本人の意思や状態を尊重しながら進めることが求められます。
  • 非侵襲的健康チェック
    血中の状態を簡易に把握するための測定、たとえば酸素飽和度(SpO₂)の計測。最新の介護用測定機器は、操作がシンプルで安全性も高く、介護職が利用するうえで大変有用です。

これらの行為は、【ガイドライン】で定められた手順や測定基準に沿って実施することで、利用者の安心・安全なケアにつながります。

3. 介護職が行ってはいけない医療行為

一方、介護現場で気をつけなければならないのは、医療現場でしか実施できない行為への踏み込みです。具体的には以下のような行為が例として挙げられます。

  • 注射や侵襲的手技
    インスリン注射や、カテーテルの挿入、創傷処置など、医師や看護師といった医療資格を持つ専門家が判断し、実施すべき行為です。
  • 医薬品の投与管理
    服薬補助はあくまで利用者自身が正しく飲むのをサポートするものであり、医師の処方なしに自ら薬を注射するなどの医療行為は行ってはなりません。

介護職がこれら医療行為の範囲に無理に踏み込むと、利用者の安全を損なうリスクが増すだけでなく、法的責任の問題にも発展します。そのため、利用者の状態に変化があった場合は、直ちに医療スタッフへ連絡し、専門家の判断を仰ぐことが必須です。

4. 介護と医療の連携の重要性

介護職が担う役割は、利用者の日常生活の援助と健康状態の把握にある一方、医療現場は専門的な治療や判断が求められる分野です。双方が互いの領域を尊重しつつ、情報共有や連携を密にすることで、万が一の際にもスムーズな対応が可能となります。たとえば、

• 測定したバイタルサインに異常が認められた場合、すぐに医療機関へ報告し、適切な医療介入を受ける。
• 介護現場で得られた情報をもとに、医療現場と共同で利用者のケアプランを見直し、各自の役割を明確にする。

こうした取り組みが、利用者の安心と介護職の自信、ひいてはケア全体の質向上につながります。

5. デバイスを利用したケア評価のポイント

現代では、介護職が使用する各種の測定機器が進化しており、正しい運用方法を理解することが非常に重要です。たとえば:

  • 血圧計・体温計
    自動測定機器を利用する際は、メーカーが推奨する手順に従い、定期的な点検やキャリブレーションが必要です。実際、家庭内での血圧管理では、135/85 mmHg未満を目安に、診察時は140/90 mmHg未満が適切とされています。
  • 酸素飽和度(SpO₂)の計測
    非接触型あるいは指先での計測が普及しており、数値の変動に敏感になれば、利用者の状態悪化を早期に察知することが可能です。

これらの数値データを理解し、日常の変化として正しく把握・記録することで、必要な時に医療職とのスムーズな連携が実現します。

6. 安心安全なケアの実践へ

介護と医療の明確な境界は、利用者を安全に守り、介護職自身が安心して業務に専念できる環境を作るための大切な指針です。最新のガイドラインは、
• 介護職ができる行為:非侵襲的な健康チェック、日常生活の補助、基本的な測定業務
• 行ってはいけない医療行為:侵襲的な処置、注射、専門医療が必要な処置

など、具体的に線引きを示しています。また、利用者の状態に応じて「異常を発見したらすぐに医療機関へ連絡する」という、緊急時の対応策も明記されており、これに基づいて現場でのコミュニケーションや連携が実践されています。

さらに、介護現場内での【OJT】や定期的な研修、勉強会を通じて、自分たちの業務範囲を再確認し、最新の情報を共有することが求められます。こうした取り組みは、利用者の安心感につながるだけでなく、介護職の自信向上にも寄与します。

7. まとめ

介護と医療の境界は、単に法的な問題だけでなく、利用者の安全とケアの質、そして介護職ご自身の安心感にも直結する非常に重要なテーマです。
– 介護職は、正しい手順で日常の健康状態の評価や生活支援を行い、異常があれば専門の医療スタッフに早期に報告する。
– 侵襲的な医療行為や、高度な医療判断が必要な処置は、必ず医療資格を持つ専門家に任せる。
– 最新の測定機器やデバイスを正しく使いこなすための知識・技術を向上させ、定期的な研修や情報共有を通じて、介護・医療双方の連携を深めることが求められます。

このようなガイドラインに基づいた実践は、私たち介護職が利用者に寄り添いながらも、安全・安心なケアを提供するための大きな支えとなります。現場で直面する様々な状況において、どう行動すべきかを常に見直し、最新情報を取り入れることで、変化する環境に柔軟に対応していきましょう。


この記事が、日々のケア業務に携わる皆さんの「現場での判断基準」として、また医療スタッフとの円滑な連携のための一助となれば幸いです。たとえば、家庭での血圧や体温の測定の際に、適切な値(家庭では135/85 mmHg未満、診察時は140/90 mmHg未満)の基準を参考にするなど、具体的な数字をもとにした評価が日々の実践につながっています。

今後も、介護と医療の明確な線引きを遵守しながら、お互いの専門性を尊重した連携体制をしっかりと築いていくことが、利用者の安心と自らの成長につながると信じています。
さらに、最新のガイドライン改定情報や研修会の案内にも注目し、不断の学びを重ねることで、さらなる質の高いケアが実現できるよう、共に前進していきましょう。

このように、介護現場でできる適切な行為と、医療専門職に委ねるべき行為――その境界を理解し守ることは、ケアの現場を安全に、そして暖かく保つための鍵なのです。

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