
本記事の目的と概要
本レポートは、厚生労働省が発出した「介護保険最新情報 Vol.1405」(令和7年7月22日付)の内容に基づき、介護情報基盤の今後のスケジュール、介護情報基盤活用のための介護事業所等への支援、および介護情報基盤とケアプランデータ連携システムの統合に関する詳細を、関係者向けに簡潔かつ網羅的に解説することを目的としています。この取り組みは、介護保険行政の円滑な実施と介護サービスの質の向上を目指すものであり、その背景、具体的な導入スケジュール、利用者、市町村、介護事業所、医療機関といった各関係者が享受するメリット、必要な準備、そして政府による支援策について詳述します。特に、介護情報基盤とケアプランデータ連携システムの統合がもたらす影響と期待される効果に焦点を当て、今後の円滑な移行と活用に向けた示唆を提供します。
介護情報基盤の背景と重要性
高齢化が急速に進む日本社会において、介護保険行政の円滑な実施と医療・介護連携の強化は喫緊の課題となっています。これらの課題を解決するためには、情報通信技術の活用が不可欠であり、その中核を担うのが介護情報基盤です。この基盤は、「医療DXの推進に関する工程表」(令和5年6月2日医療DX推進本部決定)に基づき構築される「全国医療情報プラットフォーム」の一部として位置づけられています。
介護情報基盤の構築は、単に介護分野のデジタル化に留まらず、保健、医療、介護の情報を横断的に共有可能な基盤を確立するという、より広範な国家戦略の一環と捉えられます。この連携は、これまで個別に管理されてきた各分野のデータを統合し、利用者の包括的な情報を一元的に把握することを可能にします。これにより、医療と介護の間の情報伝達が飛躍的に改善され、重複する検査や情報収集の削減、そして個々の利用者の状態に合わせた、よりパーソナライズされた効率的なサービス提供が期待されます。この統合的なアプローチは、将来的に社会福祉インフラ全体が、より統一的かつ迅速に対応できる体制へと進化していく方向性を示唆しており、長期的な視点での包括的な利用者管理の実現を目指すものです。
1. 介護情報基盤の概要と関係者へのメリット
介護情報基盤とは
介護情報基盤は、利用者本人、市町村、介護事業所、医療機関等の関係者間で、利用者に関する介護情報(介護保険被保険者証等情報、要介護認定情報、要介護認定申請の進捗状況情報など)を電子的に閲覧・共有することを可能とするシステムです。この基盤の活用により、業務の効率化や介護サービスの質の向上が期待されています。介護事業所や医療機関は、「介護保険資格確認等WEBサービス」を通じて、インターネット接続端末から基盤の情報にアクセスします。
関係者別メリットの詳解
介護情報基盤の導入は、介護に関わる多岐にわたる関係者に対して、それぞれ具体的なメリットをもたらします。
- 利用者・家族要介護認定に必要な書類のやり取りがスムーズになり、認定に要する期間の短縮が期待されます。また、サービス利用時に複数の証を提示する手間が簡素化され、管理・提示の負担が軽減されます。自身の介護情報を確認できるようになることで、主体的な介護サービス選択に繋がり、事業所間や多職種間の連携強化により、本人の状態に合った適切なケアの提供が可能となります。
- 市町村(保険者)ケアマネジャーからの要介護認定申請進捗状況確認や、ケアプラン作成に必要な要介護認定情報の提供依頼が電話や窓口で不要となり、業務負担が軽減され、印刷・郵送コストも削減されます。さらに、主治医意見書が医療機関から電子的に送付され、介護保険事務システムで取得可能となるため、要介護認定事務の迅速化や文書管理コストの削減が可能となります。
- 介護事業所・ケアマネジャー要介護認定申請の進捗状況をWEBサービス画面で随時確認可能となり、市町村への電話等での問い合わせが不要となることで、業務効率が向上します。ケアプラン作成に必要な要介護認定情報をWEBサービス画面で随時確認可能となり、市町村への情報提供依頼や窓口・郵送での受取が不要となることで、迅速なケアプラン作成が可能となります。電子による資格情報の確認が可能となり、サービス提供時の証確認等にかかる業務負担が軽減されます。また、利用者の情報を事業所間や多職種間で共有・活用しやすくなり、本人の状態に合った適切なケアの提供が可能となるなど、提供する介護サービスの質の向上が期待されます。
- 医療機関主治医意見書の市町村への電子的提出が可能となり、郵送が不要となることで業務負担が軽減されます。過去の主治医意見書の閲覧も可能となります。特に、ケアプラン情報やLIFE情報(生活に関する情報)の活用が可能となる点は重要です。これは、医療専門家が利用者の純粋な医学的診断だけでなく、日常生活の状況、身体機能、既存の介護サービス介入といった側面を包括的に理解することを可能にします。この全体像の把握は、病気に焦点を当てた視点から、より利用者中心のケアへと移行する上で極めて重要です。例えば、医師は利用者の実際の生活環境や介護支援体制を考慮して、投薬や治療計画を調整できるようになり、より実践的で効果的な介入へと繋がります。これにより、医療と介護のサービスが孤立することなく、相乗的に機能する真に統合されたケアが促進され、個々の利用者の複雑なニーズに対応し、全体的なウェルビーイングを向上させる上で不可欠な要素となります。
関係者別メリット一覧
関係者 | 具体的なメリット |
利用者・家族 | 要介護認定期間の短縮、複数の証提示の簡素化、主体的なサービス選択、適切なケアの提供 |
2. 今後のスケジュールと自治体の対応
「医療DXの推進に関する工程表」との関連
介護情報基盤の整備は、「医療DXの推進に関する工程表」において、令和8年度から自治体システムの標準化の状況を踏まえ全国実施していく方針が示されています。具体的には、2023年度中に共有すべき情報の検討や要件定義、システム方式の検討、自治体業務フローの見直しを行い、2024年度からシステム開発、希望する自治体での先行実施を経て、2026年度から全国実施へと進む計画です。これは、介護情報基盤が、政府が推進する保健・医療・介護分野の広範なデジタル・トランスフォーメーション戦略における重要な構成要素であることを示しています。
市町村におけるシステム標準化とデータ移行のスケジュール
市町村が介護情報基盤を円滑に活用するためには、原則として以下の3つの対応が求められます。第一に、各市町村において介護保険事務システムの標準化対応を行うこと。第二に、介護情報基盤へのデータ送信のための介護保険事務システムの改修を行うこと。そして第三に、改修された介護保険事務システムから介護情報基盤へのデータ移行を完了させることです。
これらの準備を踏まえ、令和8年4月1日以降、介護情報基盤との連携を含めた標準化対応が完了した市町村から順次、介護保険システムからのデータ移行および介護情報基盤経由での情報共有を開始します。最終的な目標として、全ての市町村において、令和10年4月1日までにデータ移行を含めて完了し、介護情報基盤の活用を開始することを目指しています。各自治体で対応が必要な事項の詳細については、今夏開催予定の自治体向け説明会等で改めて示される予定です。
自治体アンケート調査結果と課題
令和7年2月に実施された全国の市町村向けアンケート調査(回答率約99%)の結果は、この移行計画の実現に向けた課題を浮き彫りにしています。介護情報基盤への連携を含めた標準準拠システムへの移行について、「困難」と回答した団体が全体の半数を超えており、特に人口規模が大きい自治体で移行困難と回答する割合が高く、移行予定時期も遅くなる傾向が見られます。
有効回答のあった1599団体のうち、令和8年度までに移行予定の団体は約66%、令和9年度までに移行予定の団体は約97%、令和10年度以降に移行予定の団体は約3%でした。この調査結果は、政府の掲げる「令和10年4月1日までに全市町村での本格運用開始」という目標と、自治体側の現状の準備状況との間に乖離が存在することを示唆しています。特に、より多くの住民を抱え、複雑な既存システムを持つ大規模自治体で移行が遅れる傾向があることは、全国的なプラットフォームの均一な展開にとって大きな懸念材料です。もし一部の地域が導入に遅れを取れば、全国的な情報共有の恩恵が十分に発揮されず、地域間でサービス効率やデータ連携に格差が生じる可能性があります。したがって、厚生労働省は、遅れている自治体に対し、より的を絞った強力な支援を提供するか、あるいは柔軟な導入経路を検討する必要があるでしょう。全国医療情報プラットフォーム全体の成功は、市町村から提供される基盤データにかかっているため、このボトルネックは政策対応において慎重な監視と適応が求められる重要な点です。
介護情報基盤導入・活用スケジュール
期間 | 介護情報基盤開発・関連システム改修 | 市町村の介護保険事務システムの対応 | 介護情報基盤へのデータ送信開始 | 本格運用開始日 |
令和7年度 (2025年度) | 開発・改修継続 | 介護保険事務システム標準化に伴う改修(介護情報基盤への対応を含む)継続 | – | – |
令和8年度 (2026年度) | 開発・改修継続 | 介護保険事務システム標準化に伴う改修継続 | 令和8年4月1日以降、標準化対応完了市町村から順次開始 | – |
令和9年度 (2027年度) | 開発・改修継続 | 介護保険事務システム標準化に伴う改修継続 | 継続 | – |
令和10年度 (2028年度) | – | – | 継続 | 令和10年4月1日 |
3. 介護事業所・医療機関における準備と支援策
介護情報基盤および介護保険資格確認等WEBサービス利用に必要な準備
介護事業所や医療機関が介護情報基盤および介護保険資格確認等WEBサービスを利用するためには、いくつかの技術的な準備が不可欠です。まず、現在インターネットに接続して使用しているパソコンやタブレットに、専用の電子証明書(クライアント証明書)のダウンロードが必須となります。これに加えて、マイナンバーカードで利用者の本人確認を行う際に用いるカードリーダーの導入、介護WEBサービスを利用する端末への専用アプリケーションのダウンロード、そして介護WEBサービスの初期設定等の環境設定も必要となります。
特に医療機関が、電子カルテや文書作成ソフト等から介護情報基盤経由で主治医意見書を電子送信する場合は、これらの既存システムの改修が求められます。セキュリティ面では、クライアント証明書の導入に加え、TLS1.3通信の設定が必須とされており、職員がWEBサービスにログインする際にはワンタイムパスワード認証の仕組みが導入され、機密性の高い個人情報の保護が強化されることになります。
国保中央会による支援策の詳細
介護情報基盤の活用を促進するため、介護事業所等に対して具体的な支援策が講じられることになっています。申請は、公益社団法人国民健康保険中央会(国保中央会)において新たに設置される介護情報基盤のポータルサイト経由で受け付けられ、国保中央会経由で補助が実施される予定です。申請期間等の詳細については、確定次第改めて周知されることになっています。
この支援策は、単にデジタル化を義務付けるだけでなく、それに伴う実際の費用負担や技術的な障壁を政府が認識していることを示しています。特に、中小規模の事業所やデジタル化の進んでいない組織にとって、初期投資は大きな負担となり得ます。病院の規模やサービス種別に応じて助成率や上限額を細かく設定している点は、介護分野の多様な事業形態とそれぞれの異なるニーズを考慮した、きめ細やかな配慮がなされていることを示唆します。初期投資の大部分を補助することで、政府は導入への障壁を低減し、広範な導入を加速させるとともに、介護分野における「デジタルデバイド」の発生を最小限に抑えることを目指しています。この政策は、公共サービスにおいて、政府が民間セクターのデジタル・トランスフォーメーションを積極的に奨励し、支援する広範な傾向を反映しています。
具体的な支援内容は以下の通りです。
- 医療機関(主治医意見書作成医療機関)向け支援:
- 助成対象経費: 主治医意見書の電子的送信機能の追加経費が対象となります。これは、保険医療機関において、主治医意見書をオンライン資格確認等システムに接続する回線および介護情報基盤経由で電子的に送信するために必要となる電子カルテや文書作成ソフト等の改修に係る経費を指します。
- 助成限度額等: 200床以上の病院は1/2補助で上限55万円、199床以下の病院または診療所は3/4補助で上限39.8万円が設定されています。
- 介護事業所・医療機関(介護サービス提供医療機関)向け支援:
- 助成対象経費: ①カードリーダーの購入経費、②介護情報基盤との接続サポート等経費が対象となります。後者は、介護事業所等が介護保険資格確認等WEBサービスを利用する際に必要となるクライアント証明書の搭載等の端末設定について、技術的支援を受ける場合に要する経費を含みます。
- 助成限度額等: 訪問・通所・短期滞在系は3台まで上限6.4万円、居住・入所系は2台まで上限5.5万円、その他は1台まで上限4.2万円が設定されています。同一事業所で複数のサービスを提供している場合は、介護サービス種別に応じた助成限度額の合計が適用されます。なお、消費税分(10%)も助成対象に含まれます。
介護情報基盤活用に向けた準備と支援策
関係者 | 必要な準備 | 助成対象経費 | 補助率 | 助成限度額 |
介護事業所・医療機関共通 | クライアント証明書導入、カードリーダー導入、専用アプリケーションDL、環境設定、TLS1.3通信設定、ワンタイムパスワード認証 | ①カードリーダー購入経費、②介護情報基盤との接続サポート等経費 | – | 訪問・通所・短期滞在系: 上限6.4万円 (3台まで) 居住・入所系: 上限5.5万円 (2台まで) その他: 上限4.2万円 (1台まで) |
医療機関(主治医意見書作成) | 電子カルテや文書作成ソフト等の改修 | 主治医意見書の電子的送信機能の追加経費 | 200床以上病院: 1/2 199床以下病院・診療所: 3/4 | 200床以上病院: 上限55万円 199床以下病院・診療所: 上限39.8万円 |
4. ケアプランデータ連携システムとの統合
統合の方針と背景
令和7年6月30日に開催された社会保障審議会介護保険部会での議論を踏まえ、介護事業所で現在利用されている「ケアプランデータ連携システム」を、介護情報基盤と介護保険資格確認等Webサービスにケアプランデータ連携機能として統合する方針で検討が進められることになりました。
統合の理由と課題解決への期待
これまで介護情報基盤とケアプランデータ連携システムが併存する状況では、いくつかの課題が指摘されていました。具体的には、2つのシステムの運用保守が必要となり、ランニングコスト等が二重にかかるという「運用保守コストの二重化」の問題がありました。また、介護事業所が両システムにアクセスする際に、システム間を行き来する必要があり、利用者の「システム間の行き来の手間」が発生していました。さらに、ケアプランデータ連携システムは単体での「普及に課題」を抱えており、介護情報基盤の普及促進策とは別途の普及策を検討する必要がありました。
今回の統合は、これらの課題を解決し、運用保守の効率化、利便性の向上、そして普及促進を目的とした戦略的な決定です。これは、単に効率性を追求するだけでなく、過去のデジタル化の取り組みで生じた断片化されたシステム環境が、全体的な導入と有効性を阻害する要因となり得るという認識に基づいています。ケアプランデータ連携システムが「普及に課題」を抱えていたという事実は、この統合の重要な推進力です。政府が支援するより大きな「介護情報基盤」に機能を組み込むことで、厚生労働省は、プラットフォーム全体の導入の勢いを活用し、効果的なケア連携に不可欠なケアプランデータの共有を促進することを目指しています。この決定は、これまでの導入における課題から学び、介護専門職にとってより合理的で使いやすいデジタル環境を構築するというコミットメントを反映しています。
統合によるメリットと相乗効果
システム統合により、複数のメリットが期待されます。運用保守が必要なシステムが介護情報基盤に一本化されるため、ランニングコスト等の軽減が見込まれます。また、介護情報基盤のWebサービス上でケアプラン情報の閲覧、蓄積、データ連携を行うことが可能となり、事業所は一元的に運用管理できるようになり、利便性が向上します(介護事業所の全てのPC等でアクセス可能)。
さらに、介護情報基盤にケアプランデータ連携機能を統合することで、事業者等に向けた普及促進策を一体的に実施でき、相互利用が促されます。この利便性の向上と普及促進は、それ自体が目的であるだけでなく、より大きな目標である「ケアの質の向上」を達成するための重要な手段です。ケアプランデータが単一の、広く普及したプラットフォームを通じて容易にアクセス・共有できるようになることで、利用者のケアに関わる全ての介護提供者間のシームレスなコミュニケーションと連携が直接的に促進されます。これにより、利用者のケアプランをリアルタイムで包括的に把握することが可能となり、より情報に基づいた意思決定、重複の削減、そして利用者の変化するニーズや好みに一貫して合致したケアの提供が保証されます。これは、より協調的で利用者中心のケア提供モデルに向けた重要な一歩であり、単に記録をデジタル化するだけでなく、データが多職種チームの連携を促進する接着剤として機能する協働的なエコシステムを積極的に育成するものです。
現行システム利用者への影響と今後の対応
システム統合の時期や必要な手続等の詳細については、確定次第改めて周知されることになっています。現在ケアプランデータ連携システムを利用している介護事業所は、システム統合までの期間、引き続き現行のシステムを利用することが可能です。今後のシステム統合の際には、統合前にケアプランデータ連携システムを利用している介護事業所においてもより使いやすいシステムとなるよう、円滑なシステム統合に努めるとともに、統合までの間においても、ケアプランデータ連携システムによる介護事業所の業務負担軽減等を実現すべく、引き続きケアプランデータ連携システムの普及に努める方針が示されています。これは、既存ユーザーの懸念に対し、継続性と円滑な移行を保証することで、ユーザーの信頼を維持し、将来的な導入を促進するための重要なコミットメントです。
結論と重要なポイント
主要なポイントの要約
本レポートで詳述した介護情報基盤の整備とケアプランデータ連携システムの統合は、日本の介護保険行政と介護サービス提供におけるデジタル・トランスフォーメーションを推進する重要な取り組みです。
- 介護情報基盤は、「医療DXの推進に関する工程表」の一環として、保健・医療・介護の情報を統合する全国的なプラットフォームの中核を担うものです。
- スケジュールとしては、令和8年4月1日より順次データ移行を開始し、令和10年4月1日までに全市町村での本格運用を目指していますが、自治体側の準備状況には課題も存在し、今後の対応が注視されます。
- 利用者・家族、市町村、介護事業所、医療機関の各関係者にとって、業務効率化、情報共有の迅速化、介護サービスの質の向上といった多岐にわたるメリットが期待されます。特に医療機関においては、ケアプランやLIFE情報の活用により、利用者中心の包括的なケア提供が可能となります。
- 介護事業所・医療機関には、クライアント証明書やカードリーダー導入、システム改修等の準備が必要となりますが、国保中央会を通じた具体的な助成策が用意されており、初期投資の負担軽減が図られています。
- 特に、ケアプランデータ連携システムを介護情報基盤へ統合する方針は、運用コストの削減、利便性の向上、そして普及促進を目的とした戦略的な決定であり、これによりケア連携の質的向上が期待されます。
介護情報基盤がもたらす変革と今後の展望
介護情報基盤は、単に紙ベースの業務から電子化への移行を加速させるだけでなく、介護保険行政および介護サービス提供のデジタル・トランスフォーメーションを強力に推進するものです。この基盤は、多職種連携を強化し、利用者中心の質の高いケアを実現するための不可欠なインフラとなり、介護現場の働き方改革にも貢献する可能性を秘めています。
このプラットフォームが「全国医療情報プラットフォーム」に統合されることは、医療と介護のデータが統一される未来への布石となります。これにより、生涯にわたる健康管理において、より積極的かつ予防的なアプローチが可能となり、日本の高齢化社会における主要な国家目標である「健康寿命延伸」に貢献する可能性を秘めています。このプラットフォームがもたらす変革は、単なる行政効率化に留まらず、人口構造の変化に適応し、より強靭で応答性の高いケアエコシステムを構築するという、社会的な意義を持つものです。
関係者への提言
- 市町村: スケジュール目標達成に向け、早期のシステム標準化とデータ移行計画の策定・実行が不可欠です。特に大規模自治体は、先行事例からの学びや国との密な連携を通じて、課題解決に積極的に取り組むべきです。
- 介護事業所・医療機関: 提供される支援策(助成金等)を積極的に活用し、必要な準備(クライアント証明書導入、カードリーダー導入、システム改修等)を計画的に進めることが重要です。また、介護WEBサービスの利用習熟とセキュリティ意識の向上が求められます。
- システムベンダー: 各自治体や事業所の多様な状況に応じた柔軟なシステム改修・導入支援、および円滑なデータ移行サポートの提供が、全国的な普及を加速させる上で不可欠です。
- 国(厚生労働省・国保中央会): 自治体アンケート結果を踏まえ、準備が遅れる自治体への更なるきめ細やかな支援や、システム統合の詳細情報の早期かつ明確な周知が求められます。また、利用者・家族へのメリットの啓発を継続し、国民全体の理解と協力を促進すべきです。
参考記事:介護情報基盤をどう活用するか? 現場としての主体性が問われる時代へ(ケアマネタイムス)
介護DXの未来
介護情報基盤とケアプランデータ連携システムの統合が拓く新しいケアの形
令和10年4月1日
全市区町村での本格運用開始目標
医療と介護を繋ぐ、統一デジタル基盤へ
「医療DXの推進に関する工程表」に基づき、利用者、市町村、介護事業者、医療機関の間で介護情報を電子的に共有する「介護情報基盤」の整備が進行中です。これにより、業務効率化とサービス品質の向上が期待されています。
すべての関係者にメリット
利用者・家族
認定期間の短縮や手続きの簡素化により、負担が軽減されます。
市町村
問合せ対応や郵送コストが削減され、認定事務が迅速化します。
介護事業者
情報確認が容易になり、迅速なケアプラン作成と業務効率化が実現します。
医療機関
主治医意見書の電子提出やケアプラン情報の活用で、より良い医療を提供できます。
全国実施へのロードマップ
令和7年度 (2025)
システム開発と自治体の標準準拠システム改修を継続。
令和8年4月 (2026)
準備が完了した市町村から、介護情報基盤へのデータ送信を順次開始。
令和10年4月 (2028)
全市区町村でのデータ移行を完了し、本格運用を開始。(目標)
移行への課題:自治体の現状
令和7年2月のアンケート調査では、全国の市区町村の半数以上が標準準拠システムへの移行を「困難」と回答しました。特に人口規模の大きい自治体でその傾向が強く、計画通りの移行には課題が残ります。
約97%の団体が令和9年度までの移行を予定していますが、残る3%の団体、特に大規模自治体への支援が全国展開の鍵となります。
標準準拠システムへの移行見解
システム統合による課題解決
これまで別々に運用されていた「ケアプランデータ連携システム」を介護情報基盤に統合。コストの二重化、利用者の手間、普及の課題を一度に解決し、利便性とケアの質を向上させます。
Before: 併存の課題
- 運用コストが二重発生
- システム間の行き来が手間
- 連携システムの普及が進まない
After: 統合のメリット
- 運用コストを一本化し削減
- WEBサービスで一元管理可能に
- 一体的な普及促進で利用拡大
未来への準備:事業者・医療機関向け支援策
円滑な移行を支援するため、国保中央会を通じて導入経費の補助が実施されます。対象経費や上限額は事業所の種別や規模に応じて設定されています。
医療機関向け支援
主治医意見書の電子提出に必要なシステム改修費が対象です。
200床以上病院: 1/2補助 (上限55万円)
199床以下病院・診療所: 3/4補助 (上限39.8万円)
介護事業者向け支援
カードリーダー購入費や接続サポート経費などが対象です。
訪問・通所系: 上限6.4万円 (3台まで)
居住・入所系: 上限5.5万円 (2台まで)
その他: 上限4.2万円 (1台まで)
コメント