2040年に向けた日本の介護・福祉の未来を拓く:介護保険と障害福祉サービス改革の要点

先日2025年7月24日に「第9回 2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会が開催され、7月25日付けで『2040年に向けたサービス提供体制等のあり方に関するとりまとめ』が発表されました。今回の記事では、検討会で取りまとめられた内容を紹介します。


2040年 日本の介護・福祉改革インフォグラフィック

2040年に向けた日本の挑戦:持続可能な介護・福祉の未来

  1. 避けられない未来「2040年問題」
  2. 課題は地域で異なる:3つの地域類型と戦略
    1. 中山間・人口減少地域
    2. 大都市部
    3. 一般市等
  3. 福祉の担い手をどう確保するか?
    1. 深刻な人手不足:有効求人倍率 (2025年5月)
    2. 人材確保へのロードマップ
  4. ケアの形が変わる:統合・予防・共生へ
    1. 戦略の転換:ケアから予防・参加へ
    2. 新しいケアシステムの3本柱
      1. 医療と介護の連携強化
      2. 介護予防・健康づくり
      3. 認知症との共生
  5. 連携の力で乗り越える
    1. 地域変革のハブとなる「プラットフォーム機能」
  6. はじめに:2040年への道筋 – 日本の福祉の展望
  7. 第1章:地域特性に応じたケアの提供:介護保険と障害福祉サービスの地域戦略
    1. 基本的な考え方:時間軸と地域軸
    2. 日本の類型化:3つの地域類型とそれぞれの特性
      1. 1. 中山間・人口減少地域
      2. 2. 大都市部
      3. 3. 一般市等
    3. 全地域共通の支援体制
    4. 地域別課題と介護保険・障害福祉サービスへの対応策
  8. 第2章:強靭な労働力の構築:人材、テクノロジー、経営革新
    1. 労働力不足の危機:高い需要と供給不足
    2. 人材確保と定着のための戦略
    3. 職場環境改善と生産性向上(DX)
    4. 福祉サービス提供者の経営改善支援
    5. 他事業者との協働化、事業者間の連携、大規模化
    6. 福祉サービスにおける主要な人材・テクノロジー指標
  9. 第3章:垣根を超えて:統合ケア、予防、認知症支援
    1. 地域包括ケアの深化と医療介護連携の強化
    2. 介護予防・健康づくりの推進
    3. 認知症ケアの進化:「新しい認知症観」の受容
    4. 2040年に向けた地域包括ケアシステムの主要要素
  10. 第4章:連携の力:分野横断的な協働と資源の最適化
    1. 包括的な要請:「連携」
    2. 既存施設の戦略的活用:規制の壁を乗り越えて
    3. プラットフォーム機能の強化:地域変革の神経中枢
    4. 法人等の経営支援と社会福祉連携推進法人の役割
    5. 福祉サービスにおける横断的連携の主要な柱
  11. 結論:2040年に向けた共生社会の実現

避けられない未来「2040年問題」

2040年、日本の高齢者人口はピークを迎え、生産年齢人口は急激に減少します。これは、介護・福祉サービスの需要が爆発的に増加する一方で、担い手が不足するという深刻な事態を意味します。

約57万

2040年までに追加で必要となる介護職員数

330万

2040年に予測される独居の認知症高齢者数

課題は地域で異なる:3つの地域類型と戦略

日本の人口問題は、全国一律ではありません。国は地域を3つのタイプに分け、それぞれの実情に合ったきめ細やかな対策を進めようとしています。

⛰️

中山間・人口減少地域

サービス需要と担い手が共に減少。事業所の「多機能化」や事業者間の「連携・協働」を促し、少ない資源でサービスを維持する体制を目指します。

🏙️

大都市部

高齢者人口が急増し、需要が爆発。ICTやAI技術を活用した24時間対応の在宅サービスや、多様な住まいの整備で対応します。

🏘️

一般市等

需要が増加から減少へ転じる過渡期。既存の資源を有効活用しつつ、将来の需要減少を見据えた計画的なサービス提供体制を構築します。

福祉の担い手をどう確保するか?

人材不足は最大の課題です。賃上げなどの処遇改善はもちろん、テクノロジーの活用による生産性向上や、働きやすい職場環境づくりが急務です。

深刻な人手不足:有効求人倍率 (2025年5月)

福祉分野の求人は、全産業の平均を大きく上回り、働き手を激しく奪い合っている状況です。

人材確保へのロードマップ

課題: 深刻な人材不足
⬇️
解決策: 処遇改善・DX推進・職場環境改善
⬇️
目標: 人材確保と定着・サービスの質向上

ケアの形が変わる:統合・予防・共生へ

これからの福祉は、単にサービスを提供するだけではありません。「地域全体で支える」という考えのもと、医療と介護の連携を深め、介護が必要になる前の「予防」に力を入れます。

戦略の転換:ケアから予防・参加へ

重度の介護が必要になる人を減らし、高齢者が健康で社会参加を続けられるよう、国の戦略の重点が移ります。

新しいケアシステムの3本柱

  • 🤝

    医療と介護の連携強化

    退院後の在宅復帰支援や、急変時の対応など、医療と介護が一体となって切れ目のないサービスを提供します。

  • 💪

    介護予防・健康づくり

    高齢者が地域の「支え手」としても活躍できる「通いの場」などを増やし、健康寿命を延ばします。

  • 🧠

    認知症との共生

    認知症の人も尊厳を持って社会に参加し続けられるよう、本人視点の支援や居場所づくりを進めます。

連携の力で乗り越える

介護、障害、保育といった分野の垣根を越え、行政や民間事業者が協力する「プラットフォーム」を構築。地域全体で課題解決に取り組む体制が、未来を拓く鍵となります。

地域変革のハブとなる「プラットフォーム機能」

介護事業者
障害福祉事業者
地域の連携拠点
プラットフォーム
行政 (市町村・都道府県)
ハローワーク等

このプラットフォームが中心となり、情報共有、人材育成、経営支援などを一体的に行い、地域全体の福祉サービスを強化します。

目指すは「地域共生社会」

年齢や障害の有無にかかわらず、誰もが支え合い、活躍できる社会へ。2040年に向けた改革は、そのための重要な一歩です。

出典:「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会 とりまとめ (令和7年7月25日)


先日2025年7月24日に「第9回 2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会が開催され、7月25日付けで『2040年に向けたサービス提供体制等のあり方に関するとりまとめ』が発表されました。

日本は2040年に向けて、人口動態の重大な転換点に直面しています。この時期には、65歳以上の高齢者数がピークを迎え、特に85歳以上の医療・介護複合ニーズを抱える人口が大幅に増加すると予測されています。同時に、生産年齢人口の減少が加速し、既存の社会保障システムに計り知れない圧力がかかることが見込まれています。この一連の課題は、広く「2040年問題」として認識されています。

この「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会のとりまとめは、これらの課題を乗り越え、持続可能で質の高い福祉サービスを確保するための基本的な青写真を示しています。今回の記事では、このとりまとめで提言された内容について、特に介護保険障害福祉サービスの分野に焦点を当てて、分かりやすく解説してみます。

日本の人口動態の変化は、全国一律ではありません。検討会の報告書は、この地域差を根本的に認識し、サービス提供に対する地域に合わせたアプローチを提案しています。この章では、特定された3つの地域類型における介護保険と障害福祉サービスのそれぞれ異なる課題と、それに対応する具体的な解決策を探ります。

基本的な考え方:時間軸と地域軸

とりまとめでは、高齢化と人口減少の速度が地域によって大きく異なり、それに伴いサービス需要の変化も多様であることを強調しています。このため、地域の実情に応じた効果的かつ効率的なサービス提供体制を確保するためには、「時間軸」(時間の経過に伴う需要の変化)と「地域軸」(地理的な需要と供給の差異)の両方の視点から戦略を立てることが不可欠であるとされています。この原則は、2040年に向けた戦略全体を支える基盤となっています。

地域ごとの高齢化の進行速度やサービス需要の変動に大きな差異があるという認識は、単なる現状分析に留まりません。これは、国が画一的な政策アプローチから脱却し、地域の実情に深く根ざした、柔軟かつ適応性の高い戦略へと転換する必要があるという根本的な政策推進力となっています。このことは、政策の成功が、地方自治体が詳細なデータ分析、柔軟な計画立案、そして地域固有の革新的な実施能力をどれだけ発揮できるかに大きく依存することを示唆しています。中央からの指示にのみ頼るのではなく、戦略的思考の分散化が重要な鍵を握っています。

日本の類型化:3つの地域類型とそれぞれの特性

とりまとめでは、人口減少とサービス需要の変化に対応するため、主に3つの地域類型に分類し、介護保険サービス(高齢者介護)における対応策を提示しています。障害福祉分野も、この分類を基本としつつ、その分野特有の需要動向や個々のニーズを踏まえた対応が求められています。

1. 中山間・人口減少地域

  • 課題: これらの地域は、高齢者人口の減少とそれに伴うサービス需要の低下が特徴であり、既存のサービス基盤の維持がますます困難になっています。特に、生産年齢人口の深刻な減少は、介護や障害福祉の専門職を確保する上で大きな課題となっています。
  • 提案される解決策(介護保険):
    • 柔軟なサービス維持: 需要減少の中でも、サービス基盤を計画的に維持・確保することが重視されます。
    • 事業継続へのインセンティブ: 介護事業所が地域で機能を維持し、存続できるよう、インセンティブを設けることが検討されます。
    • 多機能化: 介護事業所が多様なサービスを効果的・効率的に提供できるよう、多機能化を推進します。例えば、高知県の「あったかふれあいセンター」は、中山間地における多機能な地域共生社会の支援拠点として機能し、地域における支え合いの力を再構築しています。
    • 事業者間の連携: 介護事業者間で連携し、経営や業務の効率化を図ることが奨励されます。
    • 広域サービス提供と移動支援: 介護事業者が自治体の圏域を超えてサービスを提供する際、より広いエリアでサービスを提供できるよう、移動支援も推進されます。
    • 市町村間の連携・広域化: 市町村間の連携や広域化、都道府県による市町村支援が促進されます。
    • 配置基準等の弾力化: 生産年齢人口の減少が著しいこれらの地域では、介護人材や専門職の確保が困難であるため、常勤・専従要件や夜勤など、様々な配置基準の弾力化が検討されます。訪問介護と通所介護等における配置基準の柔軟化も含まれます。
    • 既存施設の有効活用: 既存施設の柔軟な活用が促進され、不動産の所有要件や、転用・貸付・廃止に係る補助金の国庫返納に関する規制の緩和が、一定の条件下で検討されます。
    • 訪問系サービスの包括的評価: 利用者の突然のキャンセルや利用者宅間の移動負担が大きい訪問系サービスの報酬体系について、地域の実情に即した持続的なサービス提供を確保するため、包括的な評価の仕組みを設けることが検討されます。
    • 市町村による直接的な事業実施: サービス提供主体が少ない地域では、市町村自らが直接的な事業としてサービスを実施する枠組みの検討も考えられます。
  • 提案される解決策(障害福祉):
    • 介護分野と同様の地域分類を基本としつつ、配置基準の弾力化や、共生型サービス、基準該当障害福祉サービス、多機能型、従たる事業所といった既存制度の拡張・見直しにより、柔軟なサービス提供を可能にすることが提案されています。
    • 中山間・人口減少地域では、「多機能化」や「中核的なサービス提供主体」の支援が提案されています。これは、需要の減少と人口の分散という課題に対し、多様なサービスをより少なく、しかしより強固な「拠点」や「ハブ」に集約するという戦略的な転換を示唆しています。これにより、地域に点在するサービスを維持するよりも、限られた資源を集中させ、アクセス可能性と効率性を両立させることを目指しています。これは、超地域密着型から、持続可能性を考慮した拠点集約型への移行であり、利便性と長期的なサービス提供のバランスを取る試みと言えます。

2. 大都市部

  • 課題: これらの地域では、2040年にかけて高齢者人口が増加し続け、介護ニーズが急増するという課題に直面しています。また、土地や建物の価格が高く、サービス基盤の整備に多大な費用を要することも大きな障壁です。人口密度は高いものの、団地が多い地域などでは、高齢化の進展に地域差があったり、地縁が薄いといった固有の課題も存在します。
  • 提案される解決策(介護保険):
    • サービス基盤整備: 増加する介護ニーズに応えるため、公的サービスと民間の介護事業者の力を組み合わせ、ICTやAI技術など民間活力も活用した多様なサービス基盤の整備が重要です。
    • 多様な住まいとサービス: 高齢者のニーズに沿った多様な住まいを充実させるとともに、ICTやAI技術を活用しながら、これらの住まいに対応した様々なサービスを組み合わせ、特に独居高齢者の増加を踏まえた複合的なニーズに応える体制整備が必要です。
    • 24時間365日対応の効率的・包括的サービス: ICTやAI技術を活用した24時間365日の見守りを前提とし、緊急時や利用者のニーズがある場合に訪問や通所サービスなどの在宅サービスを組み合わせるような、包括的で利用者のニーズに応えるサービス提供のあり方が検討されます。
    • 施設基準の見直し: 高い土地・建物価格を考慮し、サービスの一定の質を維持しつつ、設備の基準等について実態に即して見直すことが検討されます。

3. 一般市等

  • 課題: 「一般市等」の地域では、2040年までの間に高齢者人口が増減し、サービス需要の状況が増加から減少へ転じる見込みです。
  • 提案される解決策:
    • 既存資源の有効活用: 既存の介護資源等を有効活用しながら、需給の変化に応じて、サービスを過不足なく確保することが必要です。
    • 将来の需要減少への早期準備: 一部の一般市等では既に中山間地域や人口減少エリアを抱えている可能性があり、近い将来に「中山間・人口減少地域」になることを見越して、早い段階から準備を進め、必要に応じた柔軟な対応を図ることが求められます。

全地域共通の支援体制

  • 情報の見える化: 地域における介護・医療の現状をエリア別に見える化し、サービス需要の変化や2040年に向けた将来の変化を踏まえ、関係者間で共有・議論することが不可欠です。
  • 都道府県と市町村の役割: 人口構造の変化に対応し、サービスを過不足なく提供・維持するためには、都道府県や市町村の役割が重要です。介護保険事業計画等のあり方や広域化の取り組みの中で、地域類型に応じた対応策を検討し、サービス提供体制を確保するための支援体制を構築する必要があります。
  • 地域づくり: 介護は地域密着型の産業であり、特に地方においては地域の雇用や所得を支える重要なインフラです。地域づくりやまちづくりの視点で、自治体と事業所が連携し、地域共生社会の構築を進める必要があります。

テクノロジー(ICTやAI)は、すべての地域類型において重要なツールとして明示されています。人口減少地域では、人材不足の中で効率性と質の維持を可能にする手段として提案されています。一方、都市部では、急増する需要に対応するための24時間体制のモニタリングや、より洗練されたオンデマンドケアを実現する手段として位置づけられています。これは、テクノロジーが単なる業務効率化のツールではなく、多様な人口動態と地理的現実に対応したサービス提供モデルを適応させるための極めて重要な推進力と見なされていることを示しています。資源が限られた地域では、質の高いサービスを少ない人員で維持するための「イコライザー(均等化装置)」として機能し、需要の高い地域では、より高度で応答性の高いケアを可能にする「ディファレンシエーター(差別化装置)」としての役割を果たすと考えられます。

地域別課題と介護保険・障害福祉サービスへの対応策

地域類型主要な人口・需要特性介護保険の課題介護保険の解決策障害福祉の課題障害福祉の解決策
中山間・人口減少地域高齢者人口・サービス需要減少。生産年齢人口の深刻な減少。サービス基盤維持困難、人材確保難。計画的維持、インセンティブ付与、多機能化、事業者間連携、広域化、配置基準弾力化、既存施設有効活用、包括的評価、市町村直接事業。利用者数減少傾向、地域間格差。地域分類適用、配置基準弾力化、既存制度(共生型等)の拡張・見直し。
大都市部高齢者人口・サービス需要急増。急増するニーズへの対応、高コストな基盤整備。公民連携、ICT/AI活用、多様な住まいとサービス、24/7見守り・オンデマンドサービス、施設基準見直し
一般市等高齢者人口・サービス需要の増減(将来的な減少)。需給バランスの確保。既存介護資源の有効活用、将来の需要減少への早期準備と柔軟な対応。

日本の福祉サービスの持続可能性は、強固な労働力と効率的な運営に大きく依存しています。この章では、人材確保の喫緊の課題、テクノロジー(DX)の変革的潜在力、そして介護保険と障害福祉サービスにおける職場環境の改善と経営支援の戦略について深く掘り下げます。

労働力不足の危機:高い需要と供給不足

福祉分野全体で深刻な人材不足に直面しています。介護関係職種の有効求人倍率は、2025年5月時点で3.80倍と全職業平均を大きく上回り、上昇傾向にあります。障害福祉分野でも、同時期に3.05倍と高い水準で推移しています。これは、需要と供給の深刻な不均衡を示しています。

将来の必要性として、2022年度の約215万人に対し、2040年度までに約57万人の新たな介護職員の確保が必要であると推計されています。離職率に関しては、介護事業所の約半数が10%未満である一方で、約1割の事業所では30%以上と高い離職率を示しており、事業所間でばらつきがあります。特に、「職場の人間関係」が前職の介護関係の仕事を辞めた理由の約3割を占めるという課題も指摘されています。小規模法人(従業員19人以下)は積極的な採用活動を行っていない割合が高く、ハローワークからの入職経路が全産業平均と比較して高いという特徴も見られます。

人材確保と定着のための戦略

  • 賃上げと処遇改善の推進: 介護人材確保の最大の課題は賃金であり、近年の物価高や賃上げに対応し、全産業平均の動向も注視した上で、賃上げや処遇改善の取り組みを強力に推進する必要があります。
  • データに基づいた地域戦略: 都道府県単位で介護人材の属性(年齢・性別、入職経路、外国人材の動向等)を分析し、地域差や地域固有の課題を踏まえた上で、エビデンスに基づいた人材確保対策を講じることが重要です。
  • 公的機関連携とプラットフォーム強化: ハローワークと福祉人材センターの連携など、公的機関がそれぞれのニーズに応じた役割を果たし、連携を強化する必要があります。都道府県単位でのプラットフォーム機能を充実させ、情報共有やネットワーク化、相談・研修体制の構築を進めることが求められます。
  • 小規模事業者への支援: 地域におけるプラットフォーム内での情報共有・連携強化により、小規模事業者を含め、雇用管理、人材確保、職場環境改善等についての課題認識と改善を公的機関も関与しながら進めることが重要です。
  • 「潜在的労働力」の再活用: 福祉人材センターにおいて、潜在介護福祉士の情報収集を強化し、事業所への働きかけを進めながら、復職支援等をきめ細かく行うことが求められます。これは、資格を持ちながら現在就労していない膨大な人材プールを戦略的に活用しようとするものです。このアプローチは、単に新規参入者を増やすだけでなく、仕事と生活のバランス、スキルアップの機会、職場文化への懸念など、再就労を妨げる障壁を取り除くことに焦点を当てることで、既存の人的資本を最大限に活用することを目指しています。
  • タスクシフト/シェアの推進: 業務の整理・切り出し、介護の入門的研修を組み合わせることで、タスクシェアや人材のシェアを進め、多様な人材とのマッチングや効率的な働き方を推進すべきです。団塊の世代の高齢者や他分野の早期退職者に対し、介護業界を再就職先として認知してもらう方策も検討されます。
  • 介護の魅力向上: 若い世代が希望ややりがいを持てる業界となるためには、介護のイメージを変えることが重要です。テクノロジーの活用が進んだ職場であることや、社会課題(SDGs、災害対応等)に対応する介護という観点をアピールし、学校現場と連携して介護の魅力を直接伝える機会を増やすことが求められます。
  • 外国人介護人材の活用: 小規模法人を含め、外国人介護人材の活用を希望する事業所において受け入れを進めるため、海外現地への働きかけや定着支援(日本語支援、就労・生活環境整備等)を強化することが重要です。
  • 養成施設の環境整備: 介護福祉士養成施設は、介護業界への入職を志す者を育て、地域の介護事業所等に就職させる重要な機能を持っています。テクノロジーの活用を教育に盛り込むなど、特色ある教育が実施できる環境を整備する必要があります。
  • キャリア開発と定着: 介護事業者において、職場環境改善や適切な雇用管理を行うとともに、キャリアラダーを整備し、介護現場において中核的な役割を担う介護福祉士をはじめとする介護職員のキャリアアップを図ることが、定着・人材確保のために重要です。ハラスメント対策も充実させる必要があります。

職場環境改善と生産性向上(DX)

2040年に向けて生産年齢人口の減少が進む中、介護人材の逼迫が予測されるため、テクノロジー導入や業務の見直し、介護助手等へのタスクシフト/シェアを前もって行うことが不可欠です。これは、職員の業務負担軽減を図るとともに、業務改善や効率化により生み出した時間を直接的な介護ケアに充て、利用者と職員が接する時間を増やすことを目指しています。これにより、職員の残業削減や休暇取得、教育・研修機会の付与など、職員への投資を充実させ、介護サービスの質の向上と人材の定着・確保を推進します。

このデジタル変革(DX)は、単にコスト削減や業務効率化を目的とするものではありません。むしろ、捻出された時間を「直接的なケア」に充て、「職員への投資を充実させる」という、より深い人間中心のアプローチが強調されています。これは、テクノロジーが人間の労働を単に代替するのではなく、ケアにおける人間的な触れ合いの質と深さを高めるための手段として位置づけられていることを示しています。この戦略は、介護の仕事が単に肉体的にきついという認識を覆し、より意味深く、影響力のある仕事として捉え直すことで、人材を惹きつけ、定着させる上で極めて重要な意味を持ちます。

  • テクノロジー導入の加速: 見守りセンサー、インカム、介護記録ソフトの導入を加速化することが必要です。訪問系サービスや通所サービスにおいては、汎用性の高い介護記録ソフト等の普及を重点化して促進すべきです。ケアプランデータ連携システムを活用し、業務負担を軽減することも重要です。
  • AIの活用: 計画書やサービス担当者会議等の議事録の原案作成に生成AI技術を活用するなど、在宅サービスにおける業務効率化を促進することが検討されます。
  • デジタル中核人材の育成: 事業所内で生産性向上・職場環境改善を推進するデジタル中核人材の育成・配置を進めるべきです。小規模事業所には、都道府県のワンストップ型の相談窓口による伴走支援や、地域の経営支援機関との連携による一体的な支援が強化されます。
  • 科学的介護の推進: テクノロジー等を導入し、ケアの質を高めるにあたっては、LIFE(科学的介護情報システム)などの科学的な介護も併せて推進し、そのエビデンスを定量的に評価していく必要があります。

福祉サービス提供者の経営改善支援

  • 情報に基づいた経営: 介護事業者は、地域の状況や足元の経営状況、将来の見通しをより精緻に把握することが重要です。2023年度の介護保険法改正により、介護サービス事業者は経営情報を都道府県知事に報告することになり、この情報が事業所支援や施策に適切に活用されることが期待されます。
  • 統合的な支援ネットワーク: 都道府県単位で、ハローワーク、介護労働安定センター、よろず支援拠点、地域の金融機関や経営者団体等といった関係機関と連携し、雇用管理、生産性向上、経営支援等を一体的に支援する体制を構築する必要があります。
  • 分野横断的な支援: 経営支援は、介護のみならず、障害福祉や保育といった他の福祉分野においても共通の課題であり、社会福祉法人などへの支援も重要です。福祉医療機構(WAM)等による資金融資の強化といった手法も考えられます。

他事業者との協働化、事業者間の連携、大規模化

  • 間接業務の効率化: 小規模経営の事業所を含め、安定的に事業を継続するためには、報酬請求や記録・書類作成事務といったバックオフィス業務など間接業務の効率化や、施設・設備の共同利用等を進めることが必要です。
  • 事業者間連携の推進: 個々の介護事業者で経営課題が解決できない場合、他事業者との連携・協働化、経営の多角化を含めた大規模化により解決が図られるケースもあります。社会福祉連携推進法人や小規模事業者のネットワーク構築も有効な手法です。
  • 協働化のメリット: 協働化や事業者間の連携は、離職率低下、有資格者の確保、経営の安定化、利用者のニーズへの対応強化、一括仕入れによるコスト減など、多くのメリットをもたらします。行政は、協働化等を推進するための補助事業等を通じて、事業者が協働化しやすい体制を整備していく必要があります。
  • 社会福祉連携推進法人: 社会福祉連携推進法人の活用は、協働化の一つの手法です。地域福祉の充実、人材の確保・育成といった連携によるメリットをより享受できるよう、事務負担の軽減や業務要件の緩和などにより使いやすい仕組みとしていく必要があります。

この報告書は、小規模事業者が「積極的な採用活動を行えていない」、また「個々の介護事業者により経営課題が解決できない場合も」あると明言しています。これに対する解決策として、「協働化」や「大規模化」、そして社会福祉連携推進法人の推進が挙げられています。これは、協働化が単なる効率化やベストプラクティスに留まらず、特に人材不足や経営課題に直面する小規模な地域密着型事業者にとって、事業継続のための死活的な生存戦略として位置づけられていることを示しています。つまり、連携は選択肢ではなく、集団的なレジリエンスとサービス継続性を確保するための不可欠な手段へとその性格を変えているのです。

福祉サービスにおける主要な人材・テクノロジー指標

指標介護関係職種障害福祉職種
有効求人倍率 (2025年5月/2025年1月)3.80倍3.05倍
2040年までの新規介護職員必要数約57万人
介護テクノロジー導入率 (2023年時点)約32%
KPI目標 (2029年まで)テクノロジー導入率90%
KPI目標 (2040年まで)施設系サービス等で約3割の効率化
離職率30%以上の事業所割合約1割
潜在保育士数 (2023年)

2040年に向けた日本の福祉のビジョンは、個別のサービス提供に留まらず、全体として統合されたケアシステムへと進化することを目指しています。この章では、地域包括ケアの深化、医療と介護の連携強化、介護予防・健康づくりの推進、そして認知症ケアへのアプローチの進化に焦点を当てます。このセクションは主に介護保険に焦点を当てていますが、真に共生的な社会を築くための基盤を形成するものです。

地域包括ケアの深化と医療介護連携の強化

  • 複合ニーズの増加: 2040年に向けて、医療と介護の複合ニーズを抱える85歳以上の高齢者が急増します。地域包括ケアシステムにおいて、これらの人々が適切な医療・介護サービスを受けられるよう、受け皿を確保し、急変時に必要な通院、入院等ができるよう、医療と介護の連携を強化する必要があります。
  • 中間施設の役割: 退院して在宅復帰するまでの老人保健施設や地域の中小病院等の医療機関の役割が重要です。
  • 連携メカニズムの強化: 2024年度の同時改定では、介護保険施設と協力医療機関との連携が強化されました。連携が進んでいない地域では、都道府県が地域医療構想調整会議の場を活用して、医療機関の調整を行うことが重要です。また、医療介護連携の加算算定要件が複雑で労力を要するため、見直しが必要であるとの意見も出ています。
  • 情報の見える化と分析: 地域の医療・介護状況を地域別に見える化し、分析した上で、関係者間で共有・議論を行う必要があります。これは、新たな地域医療構想や医療計画と介護保険事業計画を擦り合わせる上で不可欠です。

介護予防・健康づくりの推進

  • 「ケア」から「予防と参加」へ: とりまとめでは、「介護予防・健康づくり」の推進と、高齢者が「支える側」「支えられる側」という関係を超えて「地域支援の担い手として主体的に参加」することの重要性を繰り返し強調しています。これは、サービスを必要とする人々にケアを提供するという従来の「ケア」モデルから、より能動的な「予防と参加」モデルへの根本的な戦略転換を示唆しています。この転換の背景には、介護システムの長期的な持続可能性と有効性が、単にサービス提供を拡大するだけでなく、高齢者がより健康で、地域に積極的に関わり、自立した生活を送ることを通じて、集中的なケアの「全体的な必要性」を減らすことにかかっているという認識があります。
  • エビデンスに基づいた予防: 住民主体の通いの場や高齢期の就労等、高齢者の社会参加の拡大が、要介護状態となるリスクや認知症発生リスクの低減に効果があるとの研究成果が報告されています。自治体の担当者が利用しやすい形で情報提供を行い、介護予防・健康づくりの取り組みを活性化すべきです。
  • 介護予防・日常生活支援総合事業: この事業は、医療・介護専門職の専門性を発揮しつつ、高齢者や多様な主体を含めた地域の力を組み合わせていくことが重要です。市町村の財源確保を含めた事業推進方策について更なる検討が必要です。
  • 自治体へのインセンティブ: 保険者機能強化推進交付金や介護保険保険者努力支援交付金(インセンティブ交付金)により、介護予防等に係る自治体の取り組みを評価し、促進することが重要です。
  • 多機能な「通いの場」: 一般介護予防事業の中で実施する「通いの場」は、年齢や心身の状況等によって分け隔てることなく、誰もが一緒に参加し、認知症予防、多世代交流や就労的活動など、地域のニーズに応じた多様な機能を有する場として、地域共生社会の実現に向けて発展・拡充させる必要があります。
  • フレイル対策: フレイルの可能性がある者など、支援を要する者への医療専門職の早期かつ集中的な関与が重要ですが、人材確保に課題があります。介護老人保健施設等の医療等専門職の活用や、施設等において通いの場を設置するなど、施設等と連携した体制構築も重要です。
  • 資源の見える化: 介護予防・健康づくり等に効果的な地域の資源(健康増進施設、総合型スポーツクラブなど)を見える化し、高齢者が自ら希望する場所で取り組むことができるような仕掛けが必要です。

介護予防に関する包括的な事業や、その効果の「精緻な分析・検証」、そして「データベースをつくり見える化すべき」という明確な要求は、この重要な分野におけるエビデンスに基づいた政策決定への大きな転換を示しています。これは、将来の予防プログラムへの投資と拡大が、その効果が実証されたものに直接結びつくことを意味し、地方自治体レベルでの堅牢なデータ収集、厳密な分析、そして透明性の高い報告が不可欠となるでしょう。この変化は、公衆衛生介入における説明責任と測定可能な成果への重視を強調しています。

認知症ケアの進化:「新しい認知症観」の受容

  • 「新しい認知症観」: 2023年6月に成立した「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」は、認知症の人を含めた国民一人一人がその個性と能力を十分に発揮し、相互に人格と個性を尊重しつつ支え合いながら共生する活力ある社会の実現を推進することを明記しています。これは、認知症を単に医療的な疾患として捉え、施設収容を必要とするものと見なす従来の視点を超え、認知症を持つ個人の尊厳、権利、そして社会への継続的な参加の可能性を認識するという、深いパラダイムシフトを表しています。この考え方は、サービス設計(保護から支援へ)、地域統合(包摂的な場の創出)、そして社会全体の意識(スティグマの軽減)に広範な影響を与え、より共感的で真に包摂的な社会の枠組みを構築することを目指しています。
  • 地域に根ざした支援: 都道府県や市町村は、それぞれの実情に即した認知症施策推進計画を策定し、認知症の人・家族が安心して暮らせるために、本人や家族が参画した共生社会を実現していくことが重要です。認知症カフェや、就労の場を含む社会参加の機会につながるピアサポート活動、本人ミーティングなど、認知症の人の幅広い居場所づくりを一層充実させる必要があります。
  • 独居認知症高齢者への対応: 2040年に向けて、独居の認知症高齢者(2025年の約250万人から2040年には330万人と急増予測)が増加する中、その対応が課題となります。独居の認知症高齢者は社会的孤立のリスクが高く、医療、介護のみならず、生活支援や権利擁護・意思決定支援、住まい支援など多岐にわたる課題を抱えています。
  • 統合的サービス提供: 超高齢社会においては、認知機能の低下とともに生きる高齢者の権利利益を保護するため、社会的孤立を解消し、地域社会とつながり、必要なサービスのアクセシビリティを高める地域づくりと、権利擁護・意思決定支援を包含した地域包括ケアシステム、すなわち地域の特性に応じた統合的なサービス提供を行っていく必要があります。

2040年に向けた地域包括ケアシステムの主要要素

構成要素中核的な課題主要な戦略・解決策具体的な取り組み・事例
医療介護連携85歳以上の複合ニーズ急増、急変時対応、地域間資源格差。医療介護連携の強化、中間施設の役割重視、連携メカニズムの改善、情報見える化・分析。2024年度同時改定での連携強化、福井県の在宅医療・介護連携推進事業。
介護予防・健康づくり予防効果の確保、高齢者の社会参加促進、財源確保。高齢者の主体的な参加、エビデンスに基づいた予防推進、総合事業の活用、自治体へのインセンティブ、多機能な「通いの場」の拡充。大分県の「自立支援サイクル」、高知県の「あったかふれあいセンター」。
認知症ケア認知症高齢者の増加、独居高齢者の孤立、意思決定支援。「新しい認知症観」に基づく施策推進、地域での居場所づくり、独居高齢者への統合的支援。認知症カフェ、ピアサポート活動、本人ミーティング。

日本の福祉改革の最終的な成功は、様々な分野と関係者間の強固な「連携」にかかっています。この章では、パートナーシップの育成、既存資源の柔軟な施設活用による最適化、そして「プラットフォーム機能」の強化が、介護保険と障害福祉サービスにおける共通の重要な戦略であり、真に共生的な社会へと移行するための鍵であることを探ります。

包括的な要請:「連携」

  • 共通の課題: 報告書は、高齢化や人口減少の速度が地域によって異なる中、介護、障害福祉、保育といった福祉サービス全体で、サービス提供体制の維持・確保が共通の課題であると指摘しています。人材確保、職場環境改善・生産性向上、経営支援といった基盤整備も、福祉サービス共通の重要な課題です。
  • 連携の重要性: これらの共通課題に対応するためには、福祉サービスを提供する事業者、市町村や都道府県などの行政、関係団体、支援を行う公的機関、専門職など、様々な関係者が「連携」することが極めて重要です。特に中山間・人口減少地域においては、サービスの維持・確保のためにこの連携が不可欠とされています。
  • 連携の範囲: 事業者間の連携に留まらず、介護、障害福祉、保育といった複数の事業を展開する事業者内での連携も促進し、包括的で質の高い効率的なサービス提供を目指す必要があります。
  • 連携における役割: 行政は、地域の事業者や関係者の連携を支援すべきであり、福祉人材センターや介護労働安定センターなどの公的機関が果たす役割は大きいとされています。事業者も、人・金・モノなど様々なツールを活用し、地域の実情を踏まえた上で事業者間の連携を進める必要があります。
  • 地域共生社会の実現: この包括的な連携アプローチは、地域課題の解決に不可欠であり、地域共生社会の実現に繋がります。

とりまとめでは「連携」と「地域共生社会」の実現を明確に結びつけています。これは単なる政策目標や修辞的な表現ではなく、多様な世代やニーズを持つ人々が共に暮らし、支え合う社会のビジョンが、介護、障害福祉、保育といった福祉分野間、さらには地方自治体や公的機関、民間セクターといった広範な地域関係者間の実践的かつ運用的な連携に根本的に依存していることを意味します。このことは、連携が、社会統合という哲学的な目標を達成するための不可欠なメカニズムとして機能していることを示しています。

既存施設の戦略的活用:規制の壁を乗り越えて

  • 課題: 中山間・人口減少地域を中心に、不可欠な福祉サービスを維持するためには、既存施設の有効活用が求められます。しかし、現状の制度では、国庫補助を受けた施設を10年未満で転用・貸付した場合、原則として補助金の国庫返納が必要となるなど、柔軟な活用を阻む規制が存在します。
  • 提案される解決策: 報告書は、これらの規制を一定の条件下で緩和し、不動産の所有に係る要件や転用・貸付・廃止に係る補助金の国庫返納に関する規制について、柔軟な対応を可能とすることの必要性を提言しています。具体的には、
    • 経過年数10年未満の施設等の全部転用(補助対象事業を継続した上で一部転用する場合を除く)について、補助金の国庫返納を不要とすること。
    • 計画的な統廃合に伴う一定の機能を維持した上での廃止についても、補助金の国庫返納を不要とすること。
    • これにより、元々介護サービス用に建設された施設が、財政的ペナルティなしに障害福祉や保育の目的で再利用できるようになり、需要が減少する地域における既存インフラの活用が最大化されます。
    • 特別養護老人ホームなど地域密着型施設から広域型施設への転用に関するルールを明確化し、補助金の国庫返納が不要となる運用を図るべきであるとされています。
    • 社会福祉法人がやむを得ず解散する場合に、その施設等を自治体に帰属させることで、地域において必要な福祉サービスに活用できるよう、必要な検討を行うことも含まれます。

施設転用や補助金返納に関する規制緩和の具体的な議論は、既存の官僚的な障壁が、需要の変化する地域における資源の効率的な配分を著しく妨げているという深い理解を示しています。提案されている規制緩和は、福祉ニーズの変化に対応するための物理的資産の「有用性」と「適応性」を、当初の資金提供条件への厳格な遵守よりも優先する政府の意向を意味します。これは、硬直した規則がサービス継続性と地域の持続可能性という広範な政策目標を損なう可能性があることを認識し、人口動態の変化にインフラを適応させるための重要な実務的ステップです。

プラットフォーム機能の強化:地域変革の神経中枢

  • 目的: 「プラットフォーム機能」の強化は、人材確保、職場環境改善、DXを通じた生産性向上といった福祉サービス共通の課題に対応するために不可欠です。
  • 構造と活動: これらのプラットフォームは、都道府県レベルで設置されることが理想とされ、以下の機能を促進します。
    • 情報共有と課題認識: 介護事業所、福祉専門職養成施設、公的機関などの関係者が、地域の現状に関する情報を共有し、課題を協働して認識できるようにします。
    • 協働による課題解決: 単なる情報交換に留まらず、「人材確保・定着」「職場環境の改善、生産性向上・経営支援」「介護のイメージ改善・理解促進」といった地域ごとの個別課題に応じたプロジェクトを創設し、現場の職員を含む地域の意欲ある関係者が集い、実践的な取り組みを検討・実行します。
    • 公的機関による支援: ハローワーク、福祉人材センター、介護労働安定センターなどの公的機関がこれらのプロジェクトに積極的に参画し、面接会の開催、業務の切り出し支援、テクノロジー導入・伴走支援、学校への出前講座など、地域のニーズに応じた多様な取り組み・支援を生み出します。
    • リカレント教育: 介護事業所と養成施設間のネットワークを強化し、養成施設の設備等の資源を活用しながら、地域の担い手のスキルアップや介護事業所の職員等のキャリアアップを図るため、初任者研修や実務者研修をはじめとする各種研修を実施するリカレント教育を行うことも考えられます。
    • 分野横断的な連携: プラットフォーム機能は、介護分野に限定されず、障害福祉、保育といったすべての福祉分野に拡張され、福祉人材全体の確保に繋がるよう充実させる必要があります。保健師、看護師、リハビリテーション専門職、管理栄養士など、多様な専門職に関する関係機関とも連携し、多職種協働の取り組みを推進することも含まれます。

「プラットフォーム機能」の概念は、単なる調整メカニズムを超え、地域の福祉変革における動的な「神経中枢」として構想されています。これは、単なる情報交換から、積極的なプロジェクト創出、協働による課題解決、そして継続的な学習(リカレント教育など)へと進化することを目指しています。このアプローチは、より機敏で、地域主導型であり、継続的に改善される福祉エコシステムの構築への意図的な転換を示唆しています。これは、トップダウンの指示だけでは不十分であり、2040年問題の複雑さを乗り越えるためには、ボトムアップのネットワーク型イノベーションが不可欠であるという認識に基づいています。

法人等の経営支援と社会福祉連携推進法人の役割

  • WAMによる支援: 福祉医療機構(WAM)は、資金融資(物価高騰の影響を受けた社会福祉法人等への優遇融資を含む)や経営サポート事業を通じて、法人に対する重要な支援を提供しています。分析スコアカードの活用や、合併支援業務としての無料マッチング支援も行われ、法人が自身の経営状況を深く認識し、課題の早期発見・早期対応に繋げていくことが求められます。
  • 協働化へのインセンティブ: 地域の中核的なサービス提供主体(社会福祉法人、医療法人、株式会社等)がバックオフィス業務を取りまとめるなど、地域において協働化や連携を進めていく仕組みについて、そのインセンティブも含めて検討する必要があります。
  • 社会福祉連携推進法人の見直し: 社会福祉連携推進法人制度は、その制度趣旨を踏まえつつ、一定のガバナンスの確保に留意しながら、地域福祉の充実、人材の確保・育成といった連携によるメリットを強化し、より使いやすい仕組みとしていく必要があります。特に中山間・人口減少地域において、地域住民に必要不可欠な社会福祉事業を維持し、利用者を保護する観点から、関係者の協議を踏まえて認定所轄庁において必要性を判断した上で、社会福祉連携推進法人が社会福祉事業を行うことを可能とし、あわせて、社会福祉連携推進業務以外の業務の規模要件を緩和するといった、地域のサービス提供体制の確保のために必要な要件緩和等を行うことが検討されます。

福祉サービスにおける横断的連携の主要な柱

中核的な原則・目標主要なメカニズム・行動介護保険・障害福祉への関連性
包括的な「連携」地域共生社会の実現、共通課題への対応。分野内・分野横断的パートナーシップ、行政・公的機関・事業者・専門職の協働。サービス提供体制の維持・確保、人材確保、経営支援の共通基盤。
既存施設の有効活用資源の最適配分、地域の実情に応じた柔軟な活用。施設転用・貸付・廃止に係る補助金返納規制の緩和、所有要件の柔軟化。中山間・人口減少地域でのサービス維持に不可欠。
プラットフォーム機能の強化動的な地域エコシステムの育成、地域主導の変革。情報共有、課題認識、実践的プロジェクト創設、公的機関支援、リカレント教育、多職種連携。人材確保・定着、職場環境改善、生産性向上(DX)の推進。
法人等の経営支援と社会福祉連携推進法人の推進事業者経営の持続可能性確保。WAMによる資金融資・経営サポート、合併支援、協働化インセンティブ、社会福祉連携推進法人の要件緩和。小規模事業者の経営安定化、人材確保、サービス提供体制の維持。

日本が2040年に向かう中、福祉サービス提供体制の適応は避けられない課題です。「検討会のとりまとめ」は、地域ごとの高齢化と人口減少の速度が異なるため、介護、障害福祉、保育の各分野で地域に合わせた戦略が必要であることを強調しています。その核心にあるメッセージは、日本のケアの未来が、統合され、協働し、地域に即応したシステムへの根本的な転換にかかっているということです。

提案されている改革、すなわち、地域の戦略的な類型化、人材育成とテクノロジー統合への包括的なアプローチ、統合ケアモデルの深化、そして分野横断的な連携への包括的な重点は、孤立した取り組みではありません。これらは深く相互に関連し、強靭で思いやりのある社会を築くためのまとまりのあるビジョンを形成しています。

報告書は、特に中山間・人口減少地域における喫緊のニーズに対応するため、次期制度改正を待たずに、実行可能な措置を迅速に実施することを求めています。これは、完全な法改正サイクルを待つことができない、差し迫った脆弱性があるという認識を示しています。

2040年に向けて、長期的なビジョンは、地域包括ケアシステムを深化させ、どのような地域においても、利用者とその家族が尊厳と自立をもって、介護、医療、福祉サービスをはじめとする多様なサービスを享受しながら、安心して生活を継続できる社会を実現することです。この野心的な目標は、「全世代」の住民が支え合い、専門性を持った支援機関が地域生活課題を抱える住民を包括的に支える「地域共生社会」の実現へと繋がります。社会保障審議会をはじめとする関係審議会における継続的な議論が、このビジョンを具体的な実行可能な政策へと翻訳する上で極めて重要となるでしょう。

コメント