なぜ私たちは貧しくなったのか? ~ 戦争、バブル、そしてデジタル革命に乗り遅れた日本の100年史

現在の日本社会が抱える不安の根源とも言える、非常に壮大かつ重要な道のり。「繁栄と破壊」「熱狂と幻滅」が繰り返された125年。その歴史のうねりの中で、なぜ私たちは今ここに立っているのか、そして私たちの国、日本はなぜ「転落」したのか。


「鉄の世紀」から「借金の世紀」へ:繁栄の頂点から転がり落ちた日本と、世界を覆う債務の闇

20世紀の幕開け、世界は蒸気機関と鉄の匂いに包まれていました。

そして今、21世紀の四半世紀が過ぎた私たちは、スマートフォンの青白い光と、目に見えない巨大な「債務(借金)」の中にいます。

この125年、人類はかつてないほどの富を手に入れましたが、同時にかつてないほどの代償を支払ってきました。戦争、熱狂的な好景気、バブル崩壊、そして静かなる衰退。

特に私たち日本にとって、この歴史の結末は残酷なものでした。かつて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と謳われた経済大国は、なぜ階段を転げ落ちるようにして中進国レベルまで国力を落としてしまったのか。

今回は、金融、戦争、そして産業構造の変化という視点から、激動の近現代史を俯瞰し、私たちが今どこに立っているのかを解き明かします。


血と鉄、そして熱狂の20世紀前半

20世紀初頭、世界はまだ帝国の時代でした。産業革命によって強大な軍事力を手に入れた列強は、植民地を求めて衝突を繰り返しました。

しかし、その繁栄の裏では格差が広がり、人々の不満は「ポピュリズム」へと点火します。「我々こそが優秀な民族だ」「悪いのはあいつらだ」。熱狂的なナショナリズムは、世界を二度の世界大戦へと突き落としました。

経済は軍事のためにありました。国家は戦費調達のために国債を乱発し、インフレが発生し、その混乱がまた新たな対立を生む。「政治の失敗が経済を破壊し、破壊された経済が戦争を呼ぶ」という負の連鎖が、20世紀前半の正体でした。

奇跡の復興と「モノづくり」の神話

第二次世界大戦後、世界は廃墟から立ち上がりました。ここからが、20世紀後半の「黄金時代」です。

冷戦という緊張関係の下ではありましたが、西側諸国は驚異的な経済成長を遂げました。その主役は「製造業」です。自動車、家電、鉄鋼。作れば売れる大量生産・大量消費の時代。

敗戦国・日本にとって、これは最高の追い風でした。勤勉な国民性、高い教育水準、そして官民一体となった護送船団方式。日本は高品質な製品を世界中に輸出し、「モノづくり大国」としての地位を不動のものにしました。

しかし、この成功体験こそが、後の日本を縛り付ける「呪い」になるとは、当時誰も想像していませんでした。

マネーゲームの暴走とバブルの崩壊

1980年代以降、実体経済(モノの生産)以上に、金融経済(カネの動き)が力を持ち始めます。

プラザ合意、変動相場制への移行。お金がお金を生むマネーゲームの時代。日本はその頂点でバブル経済を謳歌し、東京の地価でアメリカ全土が買えると言われるほどの熱狂に酔いしれました。

しかし、宴は長く続きません。

1990年代の日本のバブル崩壊、1997年のアジア通貨危機、そして極めつけは2008年のリーマンショックです。

強欲な金融資本主義は限界を迎え、世界経済はどん底に突き落とされました。ここから世界は、傷ついた経済を治すための「劇薬」に手を出し始めます。それが、「異次元の金融緩和」と「財政出動」です。

デジタル革命という「敗戦」

21世紀に入り、世界を一変させるゲームチェンジャーが現れました。IT・デジタル革命です。

産業の主役は、自動車や家電といった「重厚長大」なハードウェアから、Google、Amazon、Meta(Facebook)、Appleといった「ガーファ(GAFA)」に代表されるソフトウェア、プラットフォーム、データへと完全に移行しました。

ここで日本は致命的なミスを犯します。

「良いモノを作れば売れる」という20世紀の成功体験から抜け出せなかったのです。

世界がソフトウェアとインターネットで社会構造を書き換えている間、日本はハードウェアのスペック向上(ガラパゴス化)に執着しました。その結果、半導体も、スマホも、プラットフォームも、全て海外勢に奪われました。

これが、日本がトップレベルの経済大国から転げ落ちた最大の理由です。

借金漬けの世界と、老いていく国家

そして現在。2025年に向かう私たちは、複合的な危機に直面しています。

  1. 止まらない国家の借金。リーマンショックやコロナ禍を乗り切るため、先進各国は国債を大量に発行しました。今やGDP比で100%を超える借金を抱える国は珍しくありません。日本に至っては250%を超え、異次元の水準です。
  2. インフレと金利上昇の逆襲で、長年ばら撒いたお金のツケが、世界的なインフレとなって襲いかかっています。それを抑えるために金利を上げれば、今度は膨れ上がった借金の利払い不能に陥るジレンマ。日本で起きている「円安・株安・物価高」のトリプル安は、この構造的な脆弱性が露呈した結果です。
  3. 人口動態のアンバランス。世界全体では人口が増加していますが、先進国と日本は少子高齢化の極みにあります。働く世代が減り、支えられる高齢者が増える。社会保障費は増大し続け、財政をさらに圧迫します。

私たちはどこへ向かうのか

20世紀初頭、ポピュリズムと経済的苦境は世界大戦を引き起こしました。

今、世界中で再び自国第一主義が台頭し、ウクライナや中東など局地的な戦争が絶えません。経済のブロック化が進み、グローバリズムは後退しています。

日本は今、厳しい現実に直面しています。

かつての栄光にしがみつき、デジタル化に乗り遅れ、借金と高齢化に喘ぐ国。

しかし、「落ちるところまで落ちた」と認めることこそが、再生への第一歩ではないでしょうか。

過去の成功体験(昭和の幻影)を捨て、縮小する人口に合わせたコンパクトな国家経営へシフトできるか。それとも、このまま茹でガエルとして沈んでいくのか。

歴史の歯車は、残酷なほど正確に、次の時代へと回り続けています。


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