
1. イントロダクション:なぜ介護と障害福祉でデジタル化に「差」があるのか?
介護保険制度では、「介護情報基盤」や「ケアプランデータ連携システム」といった、自治体、ケアマネジャー、サービス提供事業者、医療機関などが情報共有するための全国的なデジタルプラットフォームの整備が着々と進んでいます。
一方、同じ福祉分野でありながら、障害福祉サービスでは、これまで全国一律の多職種間情報共有基盤の整備が遅れていました。国のガバメントクラウドの基幹業務に障害福祉も位置付けられ、自治体の事務処理の標準化は進んでいますが、現場レベルの多職種連携のためのデジタル基盤には、これまで大きな差がありました。
今回の記事では、この「差」が生じた背景を解き明かしつつ、現在、国がこの課題を克服するために進めている最新のデジタル化・ICT導入支援のモデル事業について詳しく解説します。
2. 差が生じた背景:障害福祉サービスが持つ「特性」
なぜ、介護保険の情報基盤整備が先行し、障害福祉が遅れたのでしょうか。主な原因は、制度やサービスの特性にあります。
(1) サービスの多様性と個別性の高さ
- 障害福祉サービス(居宅介護、生活介護、就労支援、グループホームなど)は、利用者の障害種別や個別のニーズによって支援内容が非常に多岐にわたり、個別性が極めて高いのが特徴です。
- 介護保険のように、全国一律で適用できる「標準化されたケアプロセス」を設定し、それに合わせた情報共有の仕組みを構築することが、技術的・制度的により困難でした。
(2) 連携機関の広範さ
- 障害のある方の支援には、福祉サービス事業所だけでなく、医療機関、学校などの教育機関、就労支援機関など、より広範な関係機関が関わります。
- これら多様な機関を一つの情報共有システムでつなぐには、より複雑なシステム設計と制度間の調整が必要になります。
(3) ICT導入の構造的課題
- 障害福祉サービス事業所には小規模な事業所が多く、専門のICT人材や、システム導入・運用に必要な予算の確保が難しいという構造的な課題があります。
- このため、現場でのICT化の推進が遅れがちでした。
3. 国の方向性:基幹業務標準化と現場へのICT導入支援
国は、このような課題に対し、大きく分けて二つの方向性でデジタル化を推進しています。
(1) ガバメントクラウドによる「基幹業務の標準化」
自治体が担う給付管理や台帳管理などの基幹業務のシステムを、国の示した標準仕様に基づき、共通のクラウド基盤(ガバメントクラウド)へ移行させる取り組みです。これは、主に自治体の事務効率化と、データ連携の共通土台を築くことを目的としています。
(2) 現場の生産性向上と情報連携を目的とした「モデル事業」
これと並行して、現場レベルの課題を解決するため、厚生労働省(現在はこども家庭庁も連携)などが中心となり、ICTやロボット技術の導入を支援するモデル事業を実施しています。
💡 進行中の主なモデル事業
| 事業名 | 目的と概要 | 現場への効果 |
| 障害福祉分野のICT導入モデル事業 | 障害福祉サービス事業所等におけるICT機器の導入経費を助成。特に業務効率化、職員の業務負担軽減、および感染症対策としての非接触化を促進。 | 記録のデジタル化、情報共有アプリの導入による多職種間の迅速な情報連携、ペーパーレス化、移動時間の削減など。 |
| 障害福祉分野におけるロボット等導入支援事業 | 入所施設等において、介護ロボットや見守りセンサーなどの導入経費を助成。 | 介護業務の身体的負担軽減、夜間見守りの高度化・効率化、安全・安心なサービス提供の推進。 |
| (障害児支援分野)ICTを活用した発達支援推進モデル事業 | 障害児通所支援事業所におけるICT導入を支援。見守り機器や登降園管理システム等の補助。 | 子どもの安全対策の強化と保護者の不安解消、支援記録の効率化を通じた質の高い発達支援の推進。 |
これらのモデル事業では、単に機器を導入するだけでなく、導入効果を測定・検証し、その好事例を全国に展開することで、小規模事業所も含めた全国的な底上げを図ることを目指しています。
4. まとめ:デジタル化は「情報共有」から「質の向上」へ
介護保険と障害福祉サービスにおけるデジタル基盤の「差」は、制度やサービスの特性、そしてIT投資の優先順位の違いによって生じてきました。
しかし、現在、障害福祉分野においても、自治体の基幹業務の標準化という「公的な土台」作りと、現場へのICT導入支援という「実践的な取り組み」の両輪で、デジタル化が加速しています。
特に「障害福祉分野のICT導入モデル事業」などが普及することで、今後は個別の事業所や地域単位での情報共有が進み、利用者主体の支援を行うための多職種連携がさらに強化されることが期待されます。
デジタル化は単なる「業務効率化」に留まらず、利用者の個別ニーズに合わせた質の高い支援を提供するための不可欠な手段となっていくでしょう。今後の障害福祉分野のデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展に注目です。



コメント