Licensed by Google
7月3日公示、7月20日投開票でおこなわれた参議院議員選挙。自民党の大敗、立憲民主党の伸び悩み、新光製糖の大躍進など、今までとは全く違った結果となりました。
今回は、参政党をはじめとする右派的思想を持つ政党の躍進、そしてなぜ若者たちが未来志向の選択ではなく、過去に拠り所を求めるような動きを示しているのかについて、より深く考察してみましょう。これは決して単純な現象ではなく、社会、経済、心理、そして情報環境の変化が複雑に絡み合った結果と捉えることができます。
1. 「失われた30年」がもたらした経済的な閉塞感
日本の若者たちがリベラルや未来志向ではなく、保守的な思想に惹かれる最大の根源には、長引く経済の停滞(「失われた30年」)と将来への不安があると考えられます。高度経済成長期を知らない世代にとって、日本は「経済的に豊かで、誰もが努力すれば報われた国」ではなく、「低成長、非正規雇用の拡大、社会保障の不安定さ」が常態化した国として認識されています。
このような状況下では、「未来志向」や「イケイケな感覚」を持つこと自体が難しくなります。技術革新やグローバルな競争がもたらすのは、必ずしも幸福や成功の機会ばかりではなく、むしろ不安定さや競争の激化であると感じる若者も少なくありません。
そこで、彼らの拠り所となるのが、過去の日本の成功体験です。「戦前」や「高度経済成長期」は、具体的な歴史というよりも、「日本が強かった時代」「家族や共同体が大切にされ、安定していた時代」という理想化されたイメージとして捉えられます。保守政党の掲げる「伝統」「誇り」「家族」といった価値観は、現在の競争社会で失われた安定性や温かさを求める若者の心に深く響くのです。これは、未来への希望が見出しにくいからこそ、過去に理想を投影する心理作用と言えるでしょう。
2. グローバル化への反動と揺らぐアイデンティティ
グローバル化は、多くのメリットをもたらす一方で、自国の文化やアイデンティティを揺るがす脅威として認識されることがあります。欧米の価値観が流入し、多様性が重視される中で、「日本人らしさ」や「日本の文化」が曖昧になっていくことへの危機感を抱く若者も増えています。
こうした不安に対し、保守的な思想は明確な答えを提供します。それは、「日本は世界に誇れる素晴らしい歴史と文化を持つ国であり、それを守り、次世代に継承すべきだ」という力強いメッセージです。国際社会での日本の立ち位置が相対的に低下する中、ナショナリズム(国家主義)的な言説は、若者たちに自尊心や帰属意識を与え、アイデンティティの拠り所となります。
これは、グローバルな世界で「自分は何者なのか」という問いに悩む若者にとって、非常に魅力的な「物語」として機能します。
3. 情報環境の変化と「物語」としての政治
インターネットやSNSの普及は、若者の政治意識に大きな影響を与えています。従来のテレビや新聞といった大手メディアに対する不信感が広がる中、YouTube、Twitter、TikTokといったSNSは、若者が情報を得る主要なチャネルとなりました。
これらのプラットフォームでは、複雑な社会問題をシンプルに、感情に訴えかける形で解説するコンテンツが拡散しやすい傾向にあります。参政党をはじめとする新興政党は、こうしたメディアを巧みに活用し、既存政党が発信しないような独自の視点や、「自分たちの真実」という「物語」を提示します。
例えば、「現在の日本の衰退は、戦後体制や特定の勢力による陰謀の結果だ」といった論調は、複雑な経済学や社会学の議論よりも、若者にとって直感的で分かりやすく、現状の不満の理由を腑に落ちる形で説明してくれるように感じられます。これは、既存の政治家が使う難解な言葉や、多角的な視点からの議論に飽き飽きしている若者にとって、新鮮で力強く映るのです。
4. 既存政治への失望と新しい「ヒーロー」の探求
若者たちが保守的な思想に惹かれる背景には、長年にわたる既存政党の政治に対する根深い失望があります。
- 政治の停滞:長年のデフレや低賃金、少子化といった問題に、既存政党が有効な解決策を示せていないという感覚。
- 不信感:政治家の汚職やスキャンダル、公約違反などが繰り返され、政治そのものへの期待が持てない。
- 世代間格差:年功序列や社会保障制度など、自分たち若者世代が「損をしている」と感じるシステムへの不満。
このような状況下で、既存政党の「どっちつかず」な政策や「現実的」な妥協案は、若者たちに「何も変わらない」という諦めを与えます。それに対し、明確な敵を設定し、「日本を取り戻す」という強い意志を表明する保守政党は、「現状を変えてくれるかもしれない」という希望を抱かせる新しい「ヒーロー」のように見えます。
結論
若者たちが保守や過去に拠り所を求めるのは、決して単純な「懐古趣味」ではありません。それは、不確実な未来への不安、アイデンティティの喪失感、既存政治への失望といった、現代社会が抱える複合的な問題に対する、ある種の合理的な心理的防衛策とも言えます。未来が明るく見えないからこそ、過去の成功や強さを理想化し、そこから自分たちの存在意義や希望を見出そうとするのです。この動きは、日本だけでなく、世界各国の若者にも共通して見られる現象であり、現代社会の大きな潮流の一つと言えるでしょう。
コメント