2025年参院選:日本の介護・福祉の未来を問う – 各党政策と国の方向性徹底比較

日本は急速な高齢化の波に直面しており、特に2025年は「団塊の世代」が後期高齢者(75歳以上)に突入する重要な転換点となります。内閣府の試算によれば、この年には国民の約3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上になると予測されており、これにより介護サービスの需要が急増し、既存の提供体制が限界を迎えることが「2025年問題」として強く警鐘を鳴らされています。

この「2025年問題」は、単に高齢者人口が増加するという量的な側面にとどまりません。団塊の世代が75歳以上になることで、より医療依存度が高く、複合的なニーズを持つ高齢者が急増するという質的な変化を伴います。これは、現行の介護保険制度がこれまで想定してきた「軽度者から重度者まで一律のサービス提供」というモデルが、財政的にも人材的にも持続不可能になることを示唆しています。特に、厚生労働省が指摘する「過剰サービス」や「個別ケアの理想と限界」は、この質的な変化に対応しきれない制度の硬直性を示しており、今後の制度設計において「どこまでサービスを提供できるか」という根本的な問いを社会に突きつけることになります。

厚生労働省、財務省、骨太方針が示す日本の介護・福祉が直面する課題

日本の介護・福祉分野は、複数の深刻な課題に直面しており、これらは相互に深く関連し、制度全体の持続可能性を脅かす複合的な危機を形成しています。

まず、介護人材不足の深刻化が挙げられます。厚生労働省は、2025年には約38万人、2040年には約69万人もの介護職員が不足すると予測しています。これは、日本の総労働人口が減少する中で、介護を含む社会保障分野に労働者の約15%が集中することになり、ITや製造業、建設などの他の成長産業への人材供給が滞るリスクも指摘されています。この人材の偏りは、日本全体の経済成長を停滞させ、結果的に社会保障制度の維持を困難にする可能性を秘めています。

次に、社会保障財政の逼迫が深刻です。財務省の資料によると、2025年度の社会保障関係費は約38.3兆円に増加する見込みであり、過去20年あまりで給付費用がほぼ倍増していると指摘されています。この費用の約半分は保険料によって賄われており、更なる給付費用の増加は現役世代の保険料負担の増加に直結します。財務省は、診療報酬・介護報酬が1%引き上げられると、現役世代の保険料負担が約3000億円強増加すると試算しており、現役世代の保険料率が報酬の3割に迫る水準に達している現状に警鐘を鳴らしています。保険料率の上昇を抑制する取り組みを強化しなければ、足元の構造的賃上げの動きを阻害し、中期的には保険制度が持続できなくなる恐れがあるとしています。

さらに、介護制度の持続可能性の危機も顕在化しています。介護事業者の平均利益率は、2015年の3.5%から2020年には2.1%、2025年には1.0%にまで低下すると予測されており、経営悪化によるサービスの縮小や人員削減が懸念されます。このような利益率の低下は、賃上げの困難さ、人材流出、サービス縮小という連鎖を引き起こし、国の目指す「質の向上」という目標と矛盾する状況を生み出しています。また、高齢者が住み慣れた地域で生活を続けられるよう支援する「地域包括ケアシステム」の推進も、一部で構想通りに進んでいない現状が指摘されており、2025年現在、すでにサービス提供が困難な地域も出てきています。

これらの課題は単独で存在するのではなく、相互に深く関連し、「人材不足がサービス品質と事業経営を悪化させ、それが財政逼迫を加速させ、最終的に制度全体の持続可能性を脅かすという負の連鎖」を形成しています。この連鎖は、介護・福祉制度が単なる社会保障問題ではなく、介護離職による労働力人口の減少や社会保障費増加による国家財政圧迫など、日本全体の経済成長を左右する構造的問題であることを示しています。

2025年参議院選挙を前に、日本の介護・福祉政策の議論は、政府機関が示す現状認識と将来の方向性を踏まえる必要があります。厚生労働省、財務省、そして「骨太方針」は、それぞれの立場から日本の社会保障制度が直面する課題と、その解決に向けたアプローチを提示しています。

厚生労働省の課題認識と提言

厚生労働省は、2025年に日本の介護現場で「介護崩壊」が起きる可能性を強く警告しています。その主な原因として、急激な高齢化による介護需要の増加、著しい介護人材の不足、そして社会保障財政のひっ迫を挙げています。特に、2025年には団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)に突入し、これまでの介護サービスの仕組みが限界を迎えると予測されています。

現行の介護保険制度における矛盾点も指摘されています。例えば、ケアマネジャーが個々の要介護者のニーズに合わせてケアプランを作成する「個別ケア」は理想的であるものの、人材や資源の制約により全ての利用者に最適なサービスを提供することは困難であり、これが過剰なサービス提供につながり、制度の持続可能性を脅かしているとされています。また、政府が介護サービスの「質の向上」を強く推進してきたことが、現場の事務作業や人員面の負担を増加させ、結果的に過剰なサービス提供を招いている側面も指摘されています。さらに、高齢者が住み慣れた地域で生活を続けられるよう支援する「地域包括ケアシステム」の推進も、当初の構想通りに進んでいない地域が出てきており、その失策を認め、国民や事業者への再説明が必要であるとまで言及されています。介護事業者の平均利益率が2025年には1.0%にまで低下すると予測されていることも、経営悪化によるサービスの縮小や人員削減につながる深刻な問題として認識されています。

これらの課題に対し、厚生労働省は「介護の質の低下を受け入れ、国民も納得する形で落としどころを見つけること」の必要性を提言しています。具体的には、効率化を阻む制度の見直し、効率化に対する介護報酬の引き上げ、地域包括ケアシステムの現実的な再検討、他の成長産業への人材配置のバランス考慮を挙げています。通常、政府機関はサービスの「質の向上」を目標に掲げることが多い中で、厚生労働省が「介護の質の向上をすべきという論調をやめ、国主導で効率化を阻んでいる姿勢を見直すこと」と明言している点は非常に注目すべきです。これは、これまで追求してきた「個別ケア」や「質の高いサービス」が、現在の財政的・人材的制約下では持続不可能であるという、厚生労働省自身の現状認識の転換を示唆しています。この認識は、今後の介護保険制度の抜本的な見直し、特に給付範囲の限定や利用者負担の増加といった、国民にとって「痛みを伴う選択」を迫る可能性が高いことを意味しています。

財務省の財政健全化への視点

財務省は、社会保障費の増加が国家財政に与える影響に強い懸念を示しています。2025年度の社会保障関係費は前年度(37.7兆円)から5,600億円程度増加し、約38.3兆円となる見込みです。過去10年間、社会保障関係費の実質的な伸びを「高齢化による増加分」に抑える方針を達成してきたとしながらも、医療・介護の給付費用が過去20年あまりで概ね倍増しており、経済成長率を大幅に上回って増加している現状を問題視しています。

財務省は、この費用の約半分が保険料によって賄われているため、更なる給付費用の増加が現役世代等の保険料負担増に直結すると強調しています。具体的には、診療報酬・介護報酬が1%引き上げられると、現役世代等の保険料負担が約3000億円強増加すると試算しており、現役世代の保険料率が報酬の3割に迫る水準に達していることに警鐘を鳴らしています。保険料率の上昇を抑制する取り組みを強化しなければ、足元の構造的賃上げの動きを阻害し、中期的にも保険制度が持続できなくなる恐れがあるとしています。

また、医療費の伸びのうち、人口増減や高齢化による部分は半分強に過ぎず、予算による統制の外で行われる新規医薬品の保険収載など、人口要因以外の部分も大きなシェアを占めていると指摘しています。このため、政策的にはこの「人口要因以外」の部分における重点化・適正化努力を強化することで、保険料負担を含め国民負担の増加を抑制する必要性を訴えています。財務省の視点は、社会保障費を「コスト」として捉え、その抑制を通じて現役世代の負担軽減と経済活力維持を図るという、「財政規律と経済成長の両立」に強く焦点を当てています。特に「人口要因以外」の医療費抑制の可能性への言及は、単なる高齢化だけでなく、制度運用や医療技術の進歩に伴う「政策的裁量の余地」があることを示唆しています。この認識は、給付と負担の見直し、効率化、DX推進といった骨太方針の具体的な改革項目に強く影響を与え、社会保障を「権利」と捉え、給付拡充を目指す政党との間に根本的な対立軸を生むことになります。

骨太方針2025の主要な柱

令和7年6月13日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2025」(通称:骨太方針2025)は、少子高齢化・人口減少という日本の構造的課題に立ち向かうための政府の基本指針です。この方針は、翌年度の予算編成や社会保障制度の改革方針を定める重要な文書となります。

骨太方針2025の主要な柱として、以下の点が掲げられています:

  • 生産性向上と賃上げの実現
  • 社会保障の持続可能性確保と処遇改善
  • デジタル・グリーン等の成長分野への集中投資
  • 地域間格差の是正
  • 少子化・人口減少対策の強化

介護・福祉分野の具体的な取り組みとしては、物価上昇に対応した公定価格の引き上げによる賃上げ促進が明確に示されています。これは、介護・医療・保育・福祉等の人材確保に向けた処遇改善として位置づけられています。また、介護テクノロジーの社会実装、多職種・事業者間の連携・協働、大規模化といった効率的な体制構築、医療・介護のDX推進、年収の壁・働き方改革への対応、全国平均1500円の最低賃金実現に向けた官民の努力も明記されています。

特に注目すべきは、給付と負担の見直しに関する具体的な検討項目です。骨太方針2025では、2025年度中に結論を出すべき事項として、以下の点が明記されています:

  • ケアマネジメントに関する給付のあり方(10割給付の見直し)
  • 軽度者(要介護1及び2の利用者)への生活援助サービス等に関する給付のあり方
  • 利用者負担が2割となる「一定以上所得」の判断基準の見直し

骨太方針2025は、賃上げと生産性向上を両輪として社会保障の持続可能性を図るという政府の基本戦略を明確にしています。介護・医療・福祉分野の公定価格引き上げによる賃上げは、厚生労働省が指摘する人材不足への対応策として一貫性があります。しかし、同時に明記されている「ケアマネジメントの給付見直し」「軽度者サービスの見直し」「利用者負担2割対象拡大」といった具体的な給付削減・負担増の検討項目は、財務省の財政規律の視点と強く連動しています。これは、政府が「賃上げ」というプラスの側面を打ち出しつつも、裏では「負担増」という国民にとって厳しい改革を同時に進めようとしていることを示唆しており、各党がこの「給付と負担」のバランスにどう向き合うかが、今回の選挙の大きな争点となるでしょう。

2025年参議院選挙に向けて、各主要政党は日本の介護・福祉が直面する課題に対し、それぞれの理念に基づいた政策を提示しています。ここでは、各党のマニフェストや政策発表を基に、その特徴と国の方向性との関連性を比較します。

自由民主党

自民党は与党であり、政府の「骨太方針2025」は内閣府が閣議決定した政府の基本方針であるため、両者は密接に連動していると考えられます。提供資料に2025年参院選の具体的なマニフェストは直接見当たりませんが、その政策の方向性は政府方針に沿ったものと推測されます。

過去の政策や関連情報から、自民党は「人生100年時代の安心社会」の実現を掲げ、「地域包括ケアシステム強化」「介護離職ゼロ」「ICT化推進」を重視しています。また、認知症基本法案の制定を通じた認知症の方々が尊厳を保持し安心して暮らせる社会の実現にも言及しています。ヤングケアラー支援、産後パパ育休、テレワーク推進など、多様な働き方支援を通じて介護・育児との両立を促進する姿勢も示されています。

介護従事者の処遇改善については、公明党との連立政権の合意事項として推進される可能性が高いです。骨太方針2025で示された「公定価格の引き上げによる賃上げ」「DX推進」「給付と負担の見直し」の方向性に沿った政策を推進すると考えられます。しかし、立憲民主党が提出した介護関連法案に「反対」していることから、野党が提案するような抜本的な給付拡充や利用者負担軽減には慎重な姿勢であることが伺えます。これは、財政規律を重視しつつ、漸進的な改善を目指すという与党としての立ち位置を示しており、大きな財政負担を伴う急進的な改革には及び腰である可能性が高いと見られます。

公明党

公明党の参院選重点政策は、その出来栄えが「主要政党の中で1位」と評価されたとされています。これは、その政策の具体性と国民への訴求力の高さを示唆しています。

公明党は、介護従事者、保育士等の給与を全産業平均(月額38.6万円)に引き上げることを目指し、段階的な取り組みを進めることを明確に掲げています。この具体的な数値目標は、骨太方針2025で示された「公定価格の引き上げを始めとする処遇改善」の具体的な実現策として、与党内で公明党が主導している可能性が高いことを示しています。これは、与党が財政規律を重視する中でも、国民生活に直結するケア労働者の待遇改善を優先課題としていることを示し、与党としての責任と国民への寄り添いを両立させようとする姿勢が伺えます。

また、ワーキングケアラー支援として、相談体制や家族支援の強化、事業所のDX化、介護休業促進、柔軟な働き方支援などを推進します。医療・介護DXによる業務効率化、情報共有化、負担軽減、サービス質向上(オンライン診療、健康モニタリング、介護記録電子化、センサー導入)も推進しており 12、これは骨太方針のDX推進と軌を一にしています 5。住まいの安心として、家計に占める住宅費の負担割合が高い低所得者や子育て世帯への家賃補助(新たな「住宅手当」制度創設)を検討し、バリアフリー、ユニバーサル社会の実現にも積極的に取り組むとしています。

日本共産党

日本共産党の政策は、財源確保と給付・負担のあり方において、政府・与党とは根本的に異なるアプローチを取っています。広範な経済政策として、消費税の廃止をめざし、5%に緊急減税を主張しています。

介護政策では、介護への国庫負担割合を現在の25%から35%に引き上げ、国費1.3兆円増額を目指すとしています。また、2024年度に政府が引き下げた訪問介護の基本報酬を元の水準に戻すことを一刻を争う緊急策として掲げ、軽度者の在宅サービス給付外しや、利用料の2割・3割負担対象拡大など、自公政権が計画する「史上最悪の介護保険改定」に反対し、保険給付の拡充、保険料・利用料の減免を図ることを主張しています。この「史上最悪の介護保険改定に反対」という表現は、骨太方針が2025年度中に結論を出すと明記している「軽度者サービス見直し」や「利用者負担2割対象拡大」に対して、明確な反対姿勢を示しています。

介護職の賃金を「全産業平均」並みに引き上げることも目指しており、医療崩壊を止め、医療従事者の賃上げをはかるため、自公維の「11万病床削減」に反対し、医師・看護師の計画的増員、地域医療体制強化を求めます。マイナ保険証の強制をやめ、健康保険証を存続させることも主張しています。

福祉政策では、生活保護制度の名称を「生活保障制度」に変え、権利性を明確化し、物価高騰に見合った水準に引き上げ、扶養照会などの運用改善を求めます。障害者児の福祉・医療は所得制限をなくし無料化し、障害者差別をなくし、合理的配慮を保障するとしています。旧優生保護法問題への対応(被害者補償、真相究明、差別根絶)にも言及しています。

日本共産党の政策は、社会保障を「権利」として捉え、国民の負担を最大限軽減し、国が責任を持つべきだという基本理念が強く反映されており、財政健全化を重視する政府・与党の方向性とは最も乖離が大きいと言えます。

日本維新の会

日本維新の会の政策は、「徹底した効率化と受益者負担の明確化」を特徴としています。彼らは「社会保険料を下げて暮らしを変える」を掲げ、国民医療費を年間4兆円以上削減し、後期高齢者支援金等の圧縮により、現役世代1人当たり社会保険料年間6万円引き下げを目指します。

具体的な医療費削減策として、湿布、胃薬、風邪薬など市販薬で対応可能なものは保険適用を見直すことを提案しています。また、不要な病床の適正化、オンライン・AI診療推進、電子カルテ完全普及により医療の効率と質を高めコスト削減を図るとしています。特に、高齢者の医療費窓口負担は現行の1割から原則3割(現役世代と同じ)に見直し、こども医療費の無償化に取り組むという、国民に大きな影響を伴う具体的な改革案を提示しています。これは、財務省が指摘する「現役世代の保険料負担増」への危機感を共有しつつも、政府の骨太方針が慎重に検討するとしている給付と負担の見直しを、より急進的に実行しようとする姿勢を示しています。

年金・医療・介護の構造改革を横断的に議論する「社会保障国民会議(仮称)」の設置を提案し、政府の過剰な関与を見直し、自助・共助・公助の範囲と役割を明確化することで「小さな行政機構」を目指すとしています。介護現場で働くすべての方の待遇・職場環境改善を行い、介護ロボット・テクノロジー導入を支援し、介護人材の負担軽減と職場定着、介護の成長産業化を図る点では、骨太方針の「DX推進」「生産性向上」と共通する部分があります。さらに、0-2歳児の保育無償化、出産費用の無償化も掲げています。

日本維新の会の政策は、社会保障制度における「受益と負担」の原則を強く打ち出すことで、財政健全化を最優先する新自由主義的なアプローチの典型と言えます。

立憲民主党

立憲民主党は、介護・障害福祉従事者の処遇改善に最も重点を置いていることが明確です。彼らは「介護・障害福祉従事者処遇改善法案」と「訪問介護緊急支援法案」を議員立法で提出しましたが、いずれも自民党の反対により審議されていない現状に言及しています。この状況を「処遇改善をしようとしている野党と反対する与党」という対立軸として捉え、参院選の大きな争点とすべきだと主張しています。

全ての介護職員の賃金を全産業平均の水準に引き上げることを打ち出しており、介護離職による経済損失が大きいことから、介護分野への財源投入は経済成長にも反しないという考えを示しています。これは、財務省の財政規律重視の姿勢とは異なる経済観に基づいています。

また、「持続可能な地域医療をつくる重点政策」も発表しており、現役世代の負担軽減のため予防医療の保険適用や、かかりつけ医の登録制導入等を通じて「国民の健康を守る仕組みを実現する」と述べています。高額療養費制度の見直しについては時間をかけて慎重に検討すべきとの考え方を示しており、公立・公的病院への緊急的な補助金制度の創設を掲げ、地域医療の人材確保や医薬品の安定供給についても言及しています。生きるために必要なベーシックサービス(教育や介護、医療など)の無償化を目指す方針も示されています。

立憲民主党の政策は、骨太方針の「処遇改善」とは方向性を共有しますが、その実現方法として議員立法による財源投入を強く主張し、与党の姿勢を批判しています。給付削減や利用者負担増には慎重な姿勢を示しており、骨太方針の「給付と負担の見直し」とは異なるアプローチを取ります。彼らの政策は、国民の「権利」としての社会保障を重視する姿勢が伺えます。

国民民主党

国民民主党は、「人づくりこそ、国づくり」を政策の柱に掲げ、実質所得向上と人への投資による経済好循環を目指しています。

介護・福祉分野では、介護職員、看護師、保育士等の給料倍増を目指す(10年以内)としており、これは「令和所得倍増計画」の一部と位置づけられています。この賃上げ目標は骨太方針と共通しますが、その規模(倍増)と財源(令和所得倍増計画)はより野心的です。彼らは、単なる賃上げではなく、経済全体の活性化の中で社会保障分野の人材の価値を高めようとする意図が読み取れます。

「可処分時間確保法」の制定を提唱し、育児、介護等と仕事の両立、リスキリング、休息、勤務間インターバル等の時間確保を目指しています。現役世代の負担抑制と質の高い医療・介護の両立を追求し、育児と介護を同時に行う「ダブルケアラー」や、仕事をしながら介護を行う「ビジネスケアラー」への支援を重視しています。これらの政策は、現役世代が直面する複合的な課題への具体的な対応策であり、骨太方針の「働き方改革」の延長線上にあるものの、より生活者の視点に立っています。

また、本人、家族が望む最期を支援する終末期医療(人生会議制度化等)を推進し、空き家や公営住宅等の活用による安価な賃貸住宅提供を通じて、生活基盤の安定を図ります。要介護1,2の生活援助サービス削減に反対し、現行制度維持を主張しており、これは骨太方針の検討項目と対立します。福祉用具の現行制度維持も掲げ、認知症になっても働き続けられる環境整備支援、家族介護者への支援(レスパイトケア)を推進します。介護従事者のキャリアアップ制度推進、介護ロボット・AI導入支援にも取り組み 23、全ての障がい児福祉に係る所得制限撤廃を掲げています。

れいわ新選組

れいわ新選組の政策は、「生活困窮者の徹底的救済と大胆な所得再分配」を特徴としています。彼らは「介護・保育の月給10万円アップで人手不足解消!」を最重要政策の一つとして掲げています。これは、公明党や立憲民主党が目指す「全産業平均」を大きく上回るものであり、その財源確保には大幅な国債発行や税制改革が伴うと推測されます。これは、財務省や骨太方針が強調する財政規律とは根本的に異なるアプローチであり、社会保障を「国民の生存権」として最大限保障するという、彼らのイデオロギーが強く反映されています。

介護サービスを利用しやすくし、老後が楽しみに思える社会を目指すとしており、障がいや難病を抱えていても将来に不安を抱えることなく暮らせる社会を実現することを重視しています。最低賃金1500円の実現も主張しています。

さらに、子ども手当一律月3万円、教育を大学院までオール無償化、奨学金チャラなど、子育て・教育に関する大胆な支援策も提案しています。既存の財政フレームワークに囚われず、大胆な所得再分配と財政出動を通じて、生活困窮者の徹底的な救済を目指す急進的なアプローチと言えます。

社会民主党

社会民主党は、「ミサイルよりコメ、ミサイルよりメシ、ミサイルより生活」というスローガンに象徴されるように、防衛費の増大に反対し、その予算を教育、農業、医療・介護・福祉に振り向けるべきだと強く主張しています。彼らは、安心して働き続け、望めば子どもを産み育て、安心して年をとることができる社会の実現を目指しています。

介護・福祉分野では、物価高で困窮している生活を底支えするために、最低賃金全国一律1500円の早期実現と社会保険料の労使負担割合を1:3にし、手元に残る賃金を増やすことを目指しています。中小零細企業の負担増加分は国の公費助成で補填するとし、社会を支えるケア労働者(介護職員、保育士など)の賃上げ、待遇改善を掲げています。

年金政策では、基礎年金が生活保護の生活扶助基準を下回っている現状を是正し、全ての高齢者に月10万円の最低保障年金を給付する制度の設計を急ぐとしています。介護保険制度の立て直しも重要視しており、臨時の報酬改定で介護報酬を引き上げ、介護従事者の賃上げや処遇改善を図り、持続可能な介護保険制度を再構築し、介護サービスの質を維持することを公約しています。

医療分野では、医療費の窓口負担軽減の実現と、国公立病院の閉鎖に反対。マイナ保険証の取得強制に反対し、現行の健康保険証の継続を求め、患者の負担増や受診控えにつながる高額療養費制度の自己負担限度額の引き上げにも反対しています。

居住は権利であるとし、高齢者や低所得者、障がい者、子育て世帯など住宅の確保が難しい人々に対して、安心して住まいを確保できるよう支援する住宅セーフティネットの強化、空き家の利活用など公営住宅の増設・整備を掲げています。

社民党の政策は、社会保障を「権利」として捉え、国民生活のセーフティネットを強化し、政府の財政支出を国民生活に直結する分野に優先的に振り向けるべきだという、明確な福祉国家志向を示しています。給付削減や利用者負担増に反対し、国による積極的な財政出動を求める点で、政府の財政規律重視の方向性とは対照的な立場を取っています。

2025年参議院選挙は、日本の介護・福祉制度が直面する複合的な危機に対し、各政党がどのような未来像を描き、どのような「痛み」を伴う選択を国民に提示するのかが問われる重要な機会となります。

政府(厚生労働省、財務省、骨太方針)は、超高齢社会の到来による介護需要の急増、深刻な人材不足、そして財政の逼迫という現実を直視し、制度の持続可能性を確保するために、効率化と給付・負担の見直しという両面からの改革を推進しようとしています。特に、厚生労働省が「質の低下を受け入れる」可能性に言及し、財務省が財政規律と現役世代の負担軽減を強く訴えている点は、これまでの「質の向上」一辺倒の議論から、より現実的な「どこまでサービスを提供できるか」という問いへの転換を示唆しています。骨太方針2025で明記されたケアマネジメントや軽度者サービスの見直し、利用者負担の拡大検討は、この政府の方向性を具体的に示しています。

これに対し、各政党の政策は、政府の方向性に対する賛同、補完、あるいは根本的な対立という形で多様なアプローチを示しています。

  • 与党(自民党・公明党)は、政府の骨太方針に沿って、介護従事者の処遇改善(特に公明党は全産業平均への引き上げを具体的に提示)やDX推進による効率化を進めつつ、財政規律も意識した漸進的な改革を目指す姿勢が見られます。彼らは、国民にとって「痛みを伴う選択」となりうる給付と負担の見直しを、慎重に進める立場にあると考えられます。
  • 野党は、政府・与党の政策に対し、より積極的な財政出動や給付の拡充を求める声が目立ちます。
    • 日本共産党は、消費税減税や国庫負担の大幅増額、現行の介護保険改定への強い反対を通じて、社会保障を「権利」として最大限保障すべきだという立場を明確にしています。これは、政府の財政健全化路線とは最も対立するアプローチです。
    • 日本維新の会は、社会保険料の抜本的な引き下げと、高齢者医療費窓口負担の大幅引き上げといった、徹底した効率化と受益者負担の明確化を主張し、政府の財政規律重視をさらに先鋭化させた改革を提案しています。
    • 立憲民主党は、介護・障害福祉従事者の処遇改善に重点を置き、議員立法による財源投入を強く主張することで、現場の声を重視し、人への投資が経済成長につながるという考えを示しています。給付削減や利用者負担増には慎重な姿勢です。
    • 国民民主党は、「給料倍増」という野心的な目標を掲げ、「人づくり」を通じた経済好循環を目指しており、ダブルケアラー支援など現役世代の複合的な課題への対応も重視しています。軽度者サービス削減への反対など、国民の生活実態に即した支援を重視する姿勢が伺えます。
    • 社会民主党は、防衛費の削減と社会保障への重点的な財源投入、最低保障年金や介護報酬の引き上げ、医療費窓口負担軽減への反対など、福祉国家志向を強く打ち出し、国民生活のセーフティネット強化を求めています。

この選挙では、有権者は単に各党の個別の政策を見るだけでなく、日本の社会保障制度の未来、特に「誰が、どのように、どこまで負担し、誰が、どのように、どこまでサービスを受けられるのか」という根本的な問いに対する各党の哲学と、それが国の財政状況や経済成長戦略とどう整合するのかを比較検討する必要があります。介護・福祉の現場が直面する課題は待ったなしであり、今回の選挙結果は、今後の日本の社会保障制度のあり方を大きく左右することになるでしょう。


日本の未来を左右する岐路:財政と社会保障の課題

私たち介護・福祉に携わる人の選択は? 2025年 参院選

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