「バイブコーディング」時代のシステム設計作法:技術負債を生まないための「捨てる」勇気と「つなぐ」技術

「バイブコーディング(Vibe Coding)」という言葉が象徴するように、AIの力を借りて「なんとなくの雰囲気」で動くアプリを即座に作れる時代が来ました。非エンジニアでも現場の課題を解決するパーツ(部品)を作れるようになったのは、企業にとって凄まじい武器です。

しかし、情シス(情報システム部門)の視点で見れば、これは「巨大なカオス」の幕開けでもあります。個別に作られた便利なパーツが乱立し、それらを無理やりつなぎ合わせた結果、数年後に「誰も中身がわからず、修正もできないスパゲッティ・システム」が爆誕するリスクを孕んでいるからです。

今回は、AI時代のシステム構築において、「どこまでを使い捨て、どこを堅牢に作るべきか」という、これからの情シスに求められる設計思想を整理します。


AIを使えば、特定の業務を自動化するアプリは数時間で作れます。それらをRPAやノーコードツールで連携させれば、一見すると立派な「業務システム」に見えるでしょう。

しかし、ここに落とし穴があります。

「Aアプリの仕様が変わると、連携しているBが壊れ、その影響でRPAが止まる」というドミノ倒しのような障害が頻発するようになるのです。それぞれのパーツが「バイブス(ノリ)」で作られているため、仕様書もなければ、エラーハンドリング(例外処理)も甘くなりがちです。

これからの時代、すべてのシステムを永久に使い続けようと思ってはいけません。むしろ、「いつでも捨てられるように作る」のが正解です。

ポイントは、「ロジック(中身)」と「インターフェース(接続部)」を切り離すことです。

  • 捨てるべきもの(パーツ): 現場の要望に合わせてAIで作った具体的なアプリ。これらは「賞味期限は2年」と割り切り、業務が変わったらAIで作り直す(再構築する)方が、古いコードを修正し続けるより安上がりです。
  • 守るべきもの(ハブ): システム同士をつなぐ「データ基盤」や「共通API」です。ここだけは情シスが主導して、カチッと堅牢に設計します。

パーツ同士を直接紐付け(密結合)せず、共通のハブを介して連携(疎結合)させておけば、一つのパーツを捨てて作り直しても、システム全体がスタックすることはありません。

RPAでの連携は手軽です。しかし、UI(画面)の変化に弱いRPAを連携の主軸にすると、メンテナンスコストが雪だるま式に増えていきます。

AIにコードを書かせるなら、ぜひ「API(WebHook)での連携コード」を書かせてください。

  • 「画面をポチポチ操作してデータを移す」のではなく
  • 「JSON形式のデータをAPIで飛ばす」

これだけで、システムの安定性は劇的に向上します。AIはAPIの仕様書を読み込ませれば、接続プログラムを瞬時に生成してくれます。

これまでは、情シスが自ら家(システム)を建てる「建築家」でした。しかし、これからは現場の人がAIを使って勝手に家を建てます。

情シスの新しい役割は、「都市計画家」です。

  • 「ここに水道(共通データ基盤)を通すから、みんな蛇口(API)はこの規格にしてね」
  • 「家を建てるのは自由だけど、この避難路(セキュリティ基準)だけは確保してね」

という「ガードレール」を設計することに注力すべきです。現場がバイブスで作ったアプリが壊れても、都市の基幹インフラさえ無事なら、すぐに再構築して復旧できるからです。


  1. 「一生モノ」のシステムを目指さない:パーツはAIでいつでも作り直せる「消耗品」と定義する。
  2. つなぎ目(API)こそ命:アプリ単体よりも、「データがどう流れるか」の設計に知恵を絞る。
  3. ドキュメントの代わりにプロンプトを残す:将来の再構築のために、「どんな指示(プロンプト)でそのアプリを作ったか」の履歴を資産として管理する。

AIという強力なエンジンを手に入れた今、大切なのは「壊れないシステム」を作ることではなく、「壊れてもすぐに作り直せる、しなやかな全体構造」をデザインすることではないでしょうか。


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