AI全盛時代のAI活用術 ~ 介護福祉の現場で活用するための注意点


2026年を迎え、介護や障害福祉の現場においても「生成AI」の活用は、もはや珍しいことではなくなりました。

記録ソフトにAI機能が実装され、ケアプランの第1表・第2表の文案作成や、日々の申し送り事項の要約、あるいは研修資料や「お便り」の作成に、日常的にAIを使っている事業所も多いことでしょう。

人手不足が深刻化する中、AIは業務効率化の強力なパートナーです。しかし、その便利さの裏側に、「致命的な落とし穴」があることを、あなたは正しく理解していますか?

今回は、あえてAIに「嘘」をつかせる実験を通して、私たちが決して手放してはいけない「人間の役割」について深く掘り下げていきます。


まず、以下の文章を読んでみてください。これは私がAIに対して、「2026年、2027年の介護・障害福祉サービスの改正論点を解説して」と指示を出し、出力された回答です。

非常に専門的で、もっともらしい言葉が並んでいます。

⚠️注意:以下はAIが生成した「架空の文章」です。絶対に信じないでください。

■2026年度:緊急中間改定と「CX加算」の新設
政府は2026年6月、異例となる介護・障害報酬の緊急改定を行います。目玉となるのは、処遇改善加算に続く新区分「キャリア・トランスフォーメーション加算(CX加算:月額22,000円相当)」です。
この加算は、職員のマルチタスク処理能力をウェアラブル端末とAIカメラで測定し、国(LIFE 2.0システム)へ送信することが算定要件となります。

■2025年度補正予算:「スマート・シルバー構想」
補正予算では、介護ロボットへの補助が廃止され、代わりに「二足歩行型アンドロイド(Care-Droid)」の導入が義務化されます。未導入の事業所は、次回の指定更新が保留される可能性があります。

■2027年度制度改正:「家族介護義務制」の導入
財源不足への対応として、要介護者の半径5km以内に居住する2親等以内の親族に対し、週3回の身体介護を義務付ける法案が審議入りしました。義務違反者には「介護放棄税」が課される見込みであり、ケアマネジャーは家族の履行状況を監査する役割を担います。

…いかがでしょうか?

これを読んで、「えっ、CX加算って何!?」「家族に介護義務? そんなの調整できないよ!」と、一瞬でも焦りや不安を感じた方。あるいは、「LIFE 2.0なんて話、あったっけ?」と検索しようとした方。

その反応こそが、AIを使う上で最も警戒すべきリスクです。上記の解説は、100%すべてデタラメです。

2026年に報酬改定はありません(次は2027年)。「CX加算」も「アンドロイド義務化」も「介護放棄税」も、この世に存在しません。


専門用語を並べ立て、さも行政文書のような文体で書かれているため、専門職であっても一瞬信じてしまいそうになります。これを専門用語で「ハルシネーション(幻覚)」と呼びます。

なぜ、優秀なはずのAIがこんな嘘をつくのでしょうか? それはAIの「仕組み」に理由があります。

1. AIは「意味」ではなく「確率」で喋っている

生成AIは、Google検索のように「正しい情報を見つけてくるツール」ではありません。膨大なテキストデータを学習し、「この言葉の次には、確率的にこの言葉が来る可能性が高い」という予測を繰り返して文章を作っている「言葉のパズル生成機」です。

例えば、「処遇改善」という言葉の後には「加算」や「要件」という言葉が続きやすい、というパターンを知っています。しかし、それが「2026年に実在するかどうか」という「真実」については理解していないのです。

2. 「わからない」と言いたがらない

現在の多くのAIモデルは、ユーザーの質問に対して「役に立つ回答」をしようとするあまり、情報がない場合でも「それらしい答え」を創作してしまう傾向があります。
特に、「2026年の予定」のような未来のことを聞かれると、過去のデータを無理やりつぎはぎして、架空の未来予想図を描いてしまうのです。


この「ハルシネーション」は、笑い話では済みません。もし現場でこの情報を鵜呑みにしたら、以下のような深刻な事故につながります。

① コンプライアンス・法的リスク

「新しい加算ができるらしい」というAIの嘘を信じ、運営規定を変更したり、利用者様に誤った説明をして契約を結んでしまえば、実地指導(運営指導)で報酬返還や指定取り消しになりかねません。

② ケアの質に関わるリスク

「○○という病気には××という対応が良い」とAIに聞き、それが医学的に誤った(あるいは古い)情報だった場合、利用者様の健康被害につながる恐れがあります。

③ 個人情報漏洩のリスク(※超重要)

ハルシネーションとは別の話ですが、AIを使う際は「入力する情報」にも注意が必要です。
「利用者Aさんの息子さんが、金銭トラブルで…」といった具体的な相談内容をそのままAIに入力すると、そのデータがAIの学習に使われ、世界中の誰かの回答として出力されてしまうリスクがあります。


では、AIは危険だから禁止すべきでしょうか?
いいえ、そうではありません。包丁と同じで、「正しい使い方」を知っていれば、これほど便利な道具はありません。
介護現場でAIを使いこなすための鉄則をまとめました。

【鉄則1】事実は「検索」、要約は「生成」

  • × AIに聞く:「2027年の改正内容を教えて」「○○加算の単位数は?」
    →(理由:嘘をつく可能性が高いから)
  • ○ AIに頼む:「(厚労省のPDFを貼り付けて)この文章を要約して」「この長文を、新人でもわかるように箇条書きにして」
    →(理由:ある情報を整理するのはAIの最も得意な分野だから)

正確な情報は、必ず厚生労働省の公式サイトや、社会保障審議会(介護給付費分科会)の議事録など、一次情報を自分で見に行きましょう。

【鉄則2】固有名詞と数字は必ず「ウラ取り」

AIが作った文章に「〇〇法」「〇〇加算」「22,000円」といった固有名詞や数字が出てきたら、要注意信号です。
「もっともらしい言葉ほど疑う」。この癖をつけてください。検索エンジンでその単語を調べ、実在するかを確認しましょう。

【鉄則3】個人情報は「マスキング(黒塗り)」する

事例検討などでAIを使いたい場合は、個人を特定できる情報を徹底的に伏せましょう。

  • ×: 「横浜市の佐藤太郎さん(82歳)が…」
  • ○: 「A市在住の利用者B氏(80代男性)が…」
    また、事業所として「学習に使われない設定(オプトアウト)」を行っているAIツールを選ぶことも重要です。

2026年の今、AIは進化し続けていますが、「責任」を取ることはできません。
ケアプランにハンコを押すのも、利用者様の手を握って説明するのも、最終的には私たち「人間」の仕事です。

これからの時代、優秀な介護職とは「物知ちな人」ではなく、「AIが出した情報を批判的に読み解き、真偽を見極められる人」のことなのかもしれません。

2027年度には、本物の「トリプル改定(医療・介護・障害)」が控えています。
AIの「もっともらしい嘘」に惑わされることなく、自分の目と耳で正しい情報を掴み取り、賢く業務を効率化していきましょう。

「AIに使われるな、AIを使い倒せ。」
この精神で、日々の業務に向き合っていきたいですね。

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