激動の時代における日本の介護・福祉の未来

令和7年5月27日に財政制度等審議会が発表した建議書「激動の世界を見据えたあるべき財政運営」は、現在の日本が直面している多岐にわたる課題への対応の必要性を強く訴えかけています。この建議書は、短期的な経済刺激策に留まらず、中長期的な視点に立ち、新しい経済社会モデルを設計し、戦略的に対応していくことの重要性を強調しています。特に、今後の日本の財政運営の基本となる「活力ある経済社会の実現」「安心で豊かな地域社会の確立」「持続可能な社会保障制度の構築」という三つの主要な論点が提示されています。これらは相互に深く関連しており、中でも持続可能な社会保障制度の構築は、経済成長を支える安心・安全の基盤として、最も重要な課題の一つと位置づけられています。

人口減少と超高齢化がもたらす構造的課題

日本の人口動態は、主要国と比較しても非常に速いペースで人口減少が進む見通しであり、特に経済活動の担い手である生産年齢人口や将来を担う年少人口の割合が縮小していくと予測されています。これまで女性や高齢者の労働参加が進んだことで、2010年代以降は就業者数が増加傾向にありましたが、近年は諸外国と比べても遜色ない水準に達しており、就業者数は横ばいとなっています。これは、さらなる労働力人口の増加が期待しにくい状況を示唆しています。また、都道府県別の人口減少の度合いには地域差があり、自然減に加え、若年層が地方を離れる動きが加速することで、東京一極集中の傾向がさらに強まる見込みです。

この人口動態の変化は、従来の「労働力増加による経済成長」モデルが限界を迎えていることを明確に示しています。単に労働参加率を上げるだけでは解決できない、より根深い構造的課題、例えば生産性向上、技術革新、産業構造転換への対応が不可避であることを意味します。特に介護分野においては、限られた人材を有効活用するための生産性向上が喫緊の課題とされており、これは介護分野だけでなく経済全体の持続可能性に影響を及ぼします。労働力不足は、経済全体の供給制約を強め、需要刺激策がさらなる物価上昇を招くリスクも指摘されています。このため、経済成長の源泉を労働力「量」から「質」(生産性)へと転換する政策が不可欠であり、これは社会保障制度の安定的な財源確保にも直結する、国家的な課題と言えるでしょう。

経済の転換期と財政健全化の喫緊性

日本経済は、高水準の賃上げの動きやGDPギャップの改善が見られるなど、新たなステージへ移行しつつあります。この移行を確実なものとするためには、引き続き生産性の向上等を通じた「成長と分配の好循環」を実現し、物価上昇を上回る持続的な賃上げを定着させることが鍵となります。一方で、米国の関税措置による経済・財政への影響の不透明性、物価高と実質賃金の伸び悩みによる生活困窮者の存在、人手不足による供給制約下での需要刺激策がさらなる物価上昇を招くリスク、そして格差拡大の指摘といった課題も抱えています。

日本の財政は、依然として世界最悪水準の債務残高対GDP比であり、さらに「金利のある世界」への移行と金利上昇リスクが顕在化しています。10年国債金利が約16年ぶりの高水準に達するなど、金利上昇に伴う利払費の増加が政策的経費を圧迫する懸念が高まっています。自然災害をはじめとする将来の外的ショックに対し、財政の信認を維持しながら十分な対応を可能とするため、財政余力の確保が急務とされています。このため、「経済再生と財政健全化」を両立させる歩みをさらに前進させることが求められ、2025年度から2026年度にかけてのプライマリーバランス黒字化、そして2030年度までに債務残高対GDP比をコロナ禍前の水準に向けて安定的に引き下げることを目指すべきとされています。

これまでの低金利環境下で許容されてきた財政運営の「甘さ」が、もはや通用しない局面に入ったことを意味します。利払費の増加は、社会保障費を含む他の政策的経費を圧迫し、将来世代への負担を増大させる可能性が高まります。財政健全化目標の達成が、単なる目標ではなく、国の存立に関わる喫緊の課題へと重要度が増していると言えるでしょう。財政健全化の遅れは、国の信用低下を招き、さらなる金利上昇や円安を誘発する悪循環に陥るリスクがあります。これは、社会保障制度の安定的な財源確保をより困難にし、国民生活全体に影響を及ぼす、極めて深刻な事態につながりかねません。

以下の表は、日本の人口動態の現状と将来の見通しをまとめたものです。これらの数値は、日本が直面する構造的課題の深刻さを視覚的に示しています。

表1:日本の主要な人口動態の変化(現状と見通し)

項目現状(傾向)将来の見通し(傾向)影響
総人口減少傾向非常に早いペースで減少経済規模の縮小、内需の停滞
生産年齢人口縮小傾向(就業者数は近年横ばい)割合がさらに縮小労働力不足の深刻化、潜在成長率の低下
年少人口縮小傾向割合がさらに縮小将来の労働力・納税者層の減少、社会の活力低下
高齢者人口増加傾向(特に85歳以上が急増)割合がさらに増加社会保障費の増大、医療・介護需要の増加
就業者数2010年代以降増加傾向、近年横ばいさらなる増加は期待しにくい労働力供給の限界、生産性向上の喫緊性
地域別人口動態地域差あり、若年層の地方離れ東京一極集中の加速地域経済の疲弊、地域医療・介護サービスの維持困難

介護保険制度の現状と増大する給付費

介護保険制度は、1人当たり介護給付費が急増する85歳以上人口の増加と、現役世代(支え手)の減少という構造的課題に直面しています。このため、制度の持続可能性を確保するためには、「保険給付の効率的な提供」「保険給付範囲のあり方の見直し」「高齢化・人口減少下での負担の公平化」という三つの視点から、抜本的な見直しを進めることで、中長期的に増大する介護需要に応えられる体制を構築していく必要があります。

これは単なる「費用が増えている」という問題ではなく、制度設計時の前提(人口構成)が大きく変化したことによる「構造的ひずみ」であると理解すべきです。このひずみは、保険料収入の減少と給付費の増大という二重の圧力として現れます。結果として、制度の持続性確保のために多角的な改革が不可避であり、もはや待ったなしの状況であることを示唆しています。改革が遅れれば、保険料のさらなる高騰や給付水準の低下を招き、介護を必要とする高齢者やその家族、そして現役世代の生活に深刻な影響を与えるでしょう。これは、社会全体の安心・安全の基盤が揺らぐことにつながり、ひいては経済活動にも悪影響を及ぼす可能性があります。

介護人材の確保と生産性向上の必要性

日本全体で労働力確保が課題となる中で、限られた介護人材を有効活用するとともに、増加し続ける介護費用を抑制していくためには、生産性の向上が喫緊の課題です。介護事業における新設法人は増加を続けており、差し引きで介護事業者は増加していますが、今後の生産年齢人口の減少を踏まえれば、介護分野にばかり人材が集中するのは適切でないとの指摘があります。処遇改善だけでなく、既存の人材を大切にしながら生産性の向上や職場環境整備等に取り組む事業者が利用者・職員に選ばれていくことが重要とされています。

介護職員の賃上げのために令和6年度(2024年度)報酬改定で措置された「介護職員等処遇改善加算」については、施設系サービスで上位加算取得率が高い一方で、訪問介護などの在宅系サービスでは取得率が低い現状が課題として挙げられています。介護支援専門員(ケアマネジャー)についても、従事者の減少や高齢化が進み、人材確保が課題となっています。また、民間の人材紹介会社を活用して人材を採用する場合、一部の事業者は高額な手数料を支払っており、人材紹介会社経由の場合、離職率が高いとする調査もあり、必ずしも安定的な職員確保につながっているとは言い難い状況です。

介護人材問題は、単なる「人手不足」だけでなく、「労働市場全体の構造的課題」と「介護業界固有の課題」(低賃金、重労働、生産性の低さ、不透明な人材流動)が複雑に絡み合っていると捉えるべきです。特に、在宅系サービスでの処遇改善加算取得率の低さは、地域における介護サービスの偏在や、より生活に密着したサービス提供の担い手不足を助長するリスクがあります。また、人材紹介ビジネスの不透明性は、公費が不当に流出し、本来職員の処遇改善に充てられるべき財源が圧迫されるという、財政的な側面からの問題も抱えています。この問題は、介護サービスの「量」だけでなく「質」の維持・向上、ひいては利用者への適切なサービス提供を阻害します。持続可能な介護システムを構築するためには、人材確保策を多角的に展開し、特に生産性向上と透明性の確保を通じて、介護職が「選ばれる職業」となるような環境整備が急務であると言えるでしょう。

サービス提供の質と適正化を巡る課題

介護給付の合理化・適正化のためには、画一的なケアプランの是正や、紹介事業者への手数料等に係る対応が必要です。また、次期報酬改定に向けて、算定率が低い既存の加算等について介護事業者の事務負担軽減等の観点から整理統合を図りつつ、質の高い介護サービスの推進に向けて、自立度や要介護度の維持・改善等、アウトカム指標を重視した真に有効な加算へ重点化すべきとされています。サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)等においては、同一の建物に居住する高齢者に対して特定の事業者が集中的にサービスを提供し、画一的なケアプランや過剰なサービス等、いわゆる「囲い込み」の問題が指摘されてきました。サ高住・有料老人ホームにおいて訪問看護費用が極端に高額となっている事例について、実態把握・適正化を行うべきとの指摘もなされています。要介護認定事務についても、多くの保険者において介護保険法に定める期限の超過が常態化しており、その要因を明らかにし改善を図ることが求められています。

これは、単に「不正」や「不適切」な事例の問題に留まらず、介護保険制度が本来目指す「自立支援」や「質の高いサービス提供」という理念と、現実の運用との間に乖離があることを示しています。特に、アウトカム指標重視への転換は、単なるサービス提供量ではなく、利用者の状態改善や自立度維持といった「結果」に焦点を当てることで、サービスの質と効率性を同時に高めようとする政策意図が読み取れます。また、囲い込みや高額費用は、市場原理が十分に機能していない、あるいは情報非対称性が高い介護市場の特性を浮き彫りにしていると言えるでしょう。サービスの質の低下や不適正な給付は、利用者の不利益となるだけでなく、限られた財源の無駄遣いとなり、制度全体の持続可能性を脅かします。透明性の向上、適切なインセンティブ設計、そして利用者自身がサービスを選択できる環境整備が、制度の信頼性を高める上で不可欠です。

利用者負担の公平性をどう確保するか

介護保険制度創設時、利用者負担割合は一律1割でしたが、保険料の上昇を可能な限り抑えながら、現役世代に過度な負担を求めず、高齢者世代内において負担の公平化を図るため、「一定以上所得のある方」(第1号被保険者の上位20%相当)について負担割合を2割、さらに「現役並みの所得」を有する者の負担割合を3割に引き上げてきました。居宅介護支援(ケアマネジメント)については、制度創設以来、その利用機会を確保する観点から利用者負担を取らない扱いとされてきましたが、制度創設から20年以上が経ち、介護保険サービス利用が定着している状況や、介護施設サービスとの均衡等を踏まえ、利用者負担導入を含めた給付のあり方が検討されています。介護施設の費用については、食費と個室の居住費は介護保険給付の対象外とされてきましたが、介護老人保健施設・介護医療院の多床室の室料負担についても、実態を踏まえて基本サービス費から除く見直しがさらに検討されています。

これは、単に「お金がないから負担を増やす」というだけでなく、「高齢者世代内での負担の公平化」という重要な視点を含んでいます。従来の「一律1割」では、所得や資産が多い高齢者も少ない高齢者も同じ負担となり、公平性に課題がありました。ケアマネジメントへの利用者負担導入検討は、サービス利用が定着した現状と、他のサービスとの均衡を図るという合理性に基づいていますが、これは利用者にとっての「利用しやすさ」と「制度の持続性」のトレードオフを内包します。利用者負担のあり方は、制度の持続性を高める一方で、低所得者層のサービス利用抑制や、必要なサービスが受けられない事態を招くリスクがあります。負担能力に応じたきめ細かい設定や、金融資産の保有状況の反映といった検討は、単なる所得だけでなく、真の「負担能力」を捉えようとする試みであり、社会全体の合意形成が不可欠となるでしょう。

急増する障害福祉サービス費用と質の確保

障害福祉サービス等の当初予算額は、直近10年間で約1兆円から約2兆円へ倍増しており、特に障害児向けサービスは約3倍強と著しい伸びを示しています。この伸びは社会保障関係費全体の伸び率に比して約4倍と非常に高く、持続可能性を確保するためには、サービスの質を確保しながら総費用額を抑制する取組が不可欠です。事業者の新規参入が増加する中、サービスの質の確保・向上等の観点から、計画で定める目標設定のあり方や障害福祉サービスデータベースの活用等による実効性ある計画の策定について検討が進められています。

事業者指定に当たり、申請者との事前面談、庁内会議での協議、第三者機関からの意見聴取のいずれも行っていない自治体の割合が2割弱存在し、指定のあり方に課題が見られます。自治体による運営指導(実地指導)の頻度も、事業所数の急増の影響で、おおむね3年に1度という基準を大幅に下回る状況となっています。障害者総合福祉法では、不正行為による報酬取得に対し加算金制度がありますが、そのあり方も見直しの対象となっています。また、有料で利用者の紹介を行う事業者が存在し、利益供与等の禁止規定にもかかわらず、公正中立性が損なわれている現状も指摘されています。

この状況は、障害福祉サービスが社会的に必要とされ、需要が拡大している一方で、その急激な成長に制度的なチェック機能やガバナンスが追いついていない「成長痛」と捉えることができます。不正行為や不適切な事業者の排除は、単なる財政健全化だけでなく、障害を持つ人々の尊厳と権利を守り、質の高いサービスを保障するための「信頼回復」のプロセスです。特に、公費が主要な財源であるにもかかわらず、不透明な人材紹介手数料や不正行為によって、本来サービスや職員の処遇改善に充てられるべき財源が流用されている現状は、制度の信頼性を著しく損なうものです。データベース活用による計画策定の適正化や、指定審査・運営指導の強化は、この信頼回復に向けた具体的なステップとなるでしょう。障害福祉サービスの健全な発展は、障害を持つ人々が地域社会で安心して生活し、社会参加できる基盤を強化することに直結します。不正を許さない厳格な姿勢と、透明性の高い制度運用は、国民全体のこの制度への信頼を高め、長期的な持続可能性を確保するために不可欠です。

効率的なサービス提供体制の構築とデジタル化推進

介護分野の生産性向上が喫緊の課題であり、画一的なケアプランの是正や、紹介事業者への手数料等に係る対応など、給付の合理化・適正化を進める必要があります。算定率が低い既存の加算等は、介護事業者の事務負担軽減の観点から整理統合を図りつつ、自立度や要介護度の維持・改善等、アウトカム指標を重視した真に有効な加算へ重点化すべきです。介護人材の確保においては、処遇改善だけでなく、既存の人材を大切にしながら生産性の向上や職場環境整備等に取り組む事業者が利用者・職員に選ばれていくような仕組みを推進することが重要です。賃上げ状況の継続的な調査・分析のため、経営情報データベースによる職種別の給与総額、人数の提出を義務化する等の継続的把握の取組を検討すべきです。

いわゆる「囲い込み」問題への対応として、保険者によるケアプラン点検の適切な実施等を通じて、ケアマネジメントの公正中立性に対する懸念への対応を適切に行うべきです。要介護認定事務については、デジタル化や認定事務に要する平均期間の「見える化」により、事務の迅速化と関係者の負担軽減を図るとともに、認定プロセスの縮減や合理化、蓄積されたデータを用いたAI等の活用も検討すべきです。人材紹介については、手数料の多寡や定着状況などのパフォーマンスによって紹介事業者が選別・淘汰される仕組みを推進し、労働者の転職を誘引する金銭提供禁止の対象事業拡大・強化を通じて不適正な事業者を排除すべきです。また、ハローワークや都道府県等を介した公的人材紹介を充実させるべきです。訪問看護に関する診療報酬の適正化のため、事業者への指導監査の強化に加え、同一建物減算の更なる強化など報酬上の対応を検討すべきです。また、紹介手数料の「見える化」・適正化のため、紹介事業者の営業の届け出・許認可の義務付け等の対応を検討するとともに、有料老人ホーム事業者に対しては、手数料を含む収支状況等の報告義務付け等の対応を検討すべきです。

これまで定性的にしか把握できなかった、あるいは把握すらされていなかった「非効率なプロセス」「不適切な慣行」「人材の流動実態」「費用の内訳」などを、データを通じて「見える化」することで、問題の根源を特定し、より効果的な政策立案と介入を可能にします。特に、要介護認定事務のデジタル化は、行政の効率化だけでなく、利用者の待機期間短縮や、データに基づいた個別最適なケアプラン作成への道を開く可能性があります。人材関連データの義務化は、賃上げの実態を把握し、処遇改善加算の有効性を検証する上で不可欠です。デジタル化とデータ活用は、単なる業務効率化に留まらず、介護サービスの質の向上、財源の適正利用、そして最終的には利用者と介護従事者双方の利益に資する「スマートな介護システム」への転換を促進します。これは、限られた資源の中で持続可能な社会保障制度を構築するための、本質的なアプローチであると言えるでしょう。

給付範囲と利用者負担のあり方の見直し

軽度者に対する生活援助サービス等の地域支援事業への移行や利用者負担の見直しを具体的に検討していく必要があります。質の高い介護サービスを提供する上で、利用者の立場に立ってケアプランを作成するケアマネジャーは重要な役割を担っています。公正・中立なケアマネジメントを確保する観点から、質を評価する手法の確立や報酬への反映と併せ、ケアマネジメントに関する給付のあり方(利用者負担等)について、質の高いケアマネジメントが選ばれる仕組みとする観点から検討する必要があります。介護老人保健施設・介護医療院についても、実態を踏まえ多床室の室料相当額を基本サービス費等から除外する見直しを更に行うべきです。

負担能力に応じて、増加する介護費をより公平に支え合う観点から、所得だけでなく金融資産の保有状況等の反映のあり方や、きめ細かい負担割合のあり方と合わせて検討した上で、2割負担の対象者の範囲拡大を早急に実現すべきです。また、医療保険と同様に、利用者負担を原則2割とすることや、現役世代並み所得(3割)等の判断基準を見直すことについても検討していくべきです。

これは、介護保険制度が「全世代型社会保障」の中で、どこまでを公的給付で賄い、どこからを自助・共助(地域支援事業など)や私的負担に委ねるかという「役割分担の再定義」を意味します。軽度者サービスやケアマネジメントの給付範囲見直しは、制度の財源逼迫だけでなく、地域共生社会の実現に向けた「支え合い」の強化という側面も持ちます。また、施設居住費の給付外化は、介護保険が「医療」ではなく「生活」を支える制度としての性格を明確化し、利用者の自己責任を促す意図も含まれています。この再定義は、国民一人ひとりが自身の介護リスクと負担について、より主体的に考えるきっかけとなるでしょう。同時に、地域社会の役割の増大は、自治体やNPO、ボランティアなど多様な主体による支援体制の構築を加速させる必要があり、地域全体で介護を支える意識の醸成が求められます。

障害福祉サービスの健全な発展と不正対策

障害福祉サービス等の持続可能性を確保するためには、サービスの質を確保しながら総費用額を抑制する取組が不可欠です。障害福祉サービスデータベースの活用等によるサービス見込量の計算方法を新たに基本方針に示し、それに基づき、各自治体は次期障害福祉計画におけるサービス見込量に確実に反映させるとともに、総量規制や意見申出制度の活用を進めるべきです。事業者指定のあり方を見直し、形式的な審査にとどまらず、障害福祉分野の知識を有しないなど安定的なサービス運営に懸念がある事業者が安易に指定されないよう改善すべきです。運営指導・監査の強化に係る方針に則って着実に対応を行うとともに、不正行為への抑止力を強化する観点から当該方針について周知徹底を図るべきです。その上で、取組の実施状況・効果を確認・検証していくべきです。不正行為への牽制・制裁強化の観点から、税制上の対応も参考にしつつ、加算金制度のあり方を見直すべきです。有料での利用者紹介を行う事業者に対しては、実態を把握するとともに、必要に応じて行政処分を含め厳しく対応すべきです。

この状況は、障害福祉サービスが社会的に必要とされ、需要が拡大している一方で、その急激な成長に制度的なチェック機能やガバナンスが追いついていない「成長痛」と捉えることができます。不正行為や不適切な事業者の排除は、単なる財政健全化だけでなく、障害を持つ人々の尊厳と権利を守り、質の高いサービスを保障するための「信頼回復」のプロセスです。データベース活用による計画策定の適正化や、指定審査・運営指導の強化は、この信頼回復に向けた具体的なステップとなるでしょう。障害福祉サービスの健全な発展は、障害を持つ人々が地域社会で安心して生活し、社会参加できる基盤を強化することに直結します。不正を許さない厳格な姿勢と、透明性の高い制度運用は、国民全体のこの制度への信頼を高め、長期的な持続可能性を確保するために不可欠です。

以下の表は、介護・福祉制度改革の主要な検討事項とその方向性をまとめたものです。これらの改革は、制度の持続可能性を高め、より質の高いサービス提供を目指すための重要なステップとなります。

表2:介護・福祉制度改革の主要な検討事項と方向性

テーマ主要な検討事項/提案目的と期待される効果
保険給付の効率的な提供– 生産性向上・デジタル化(要介護認定事務のAI活用、経営情報データベースによる賃上げ状況把握)
– 給付の合理化・適正化(ケアプラン是正、アウトカム重視加算、紹介手数料適正化)
– 人材確保・処遇改善(公的人材紹介充実、職場環境整備)
限られた資源の有効活用、サービス提供の質向上、介護人材の定着促進、不透明な慣行の是正
保険給付範囲のあり方の見直し– 軽度者サービス地域支援事業への移行
– ケアマネジメント利用者負担の検討
– 施設多床室の室料相当額の給付外化
制度の財源確保、地域共生社会の推進、介護保険の役割の明確化
高齢化・人口減少下での負担の公平化– 2割負担対象者の範囲拡大
– 金融資産の保有状況等の反映
– 利用者負担原則2割化、現役世代並み所得判断基準の見直し検討
高齢者世代内での負担の公平性確保、現役世代の負担軽減、制度の持続性向上
障害福祉サービスの持続可能性– ガバナンス強化(指定審査厳格化、運営指導強化、不正対策、加算金制度見直し)
– データベース活用による計画策定の適正化
– 有料紹介事業者への厳格な対応
公費の適正利用、サービスの質の確保、障害を持つ人々の権利保護、制度への信頼回復

本建議書が示すように、日本は人口減少・少子高齢化という構造的課題に加え、経済の転換期、そして財政健全化の必要性という複合的な課題に直面しています。これらの課題は、社会保障制度、特に介護・福祉の持続可能性に大きな影響を与えています。解決策は単一ではなく、保険給付の効率化、負担の公平化、サービスの質の向上、そして制度のガバナンス強化といった多角的なアプローチが不可欠であることを再確認します。

財政健全化と経済再生を両立させつつ、安心・安全な社会基盤としての社会保障制度を次世代に引き継ぐことは、私たちの社会にとって最も重要な使命の一つです。本建議書が提示する改革の方向性は、決して容易な道ではありませんが、国民一人ひとりが自身の問題として捉え、理解を深め、今後の議論に参加していくことが極めて重要です。介護福祉系のブログとして、読者の皆様がこれらの議論の動向を注視し、自身の生活や仕事にどう影響するかを考えるきっかけとなることを願っています。

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