令和6年度の訪問介護の報酬引き下げの影響

東京商工リサーチによると、昨年の介護事業者の休廃業が過去最多612件を記録し、前年比20%増であることがわかった。内訳をみると、訪問介護が448件と73.2%にのぼっている。次いで通所・短期入所が70件と多く、この2つで全体の84.6%を占めている。

高齢化が進み、ニーズがあるのにもかかわらず休廃業が増え続けてゆく背景には、深刻な人材不足と今年度の介護報酬の改定も影響しているのではないかと言われている。

そして、増加傾向にあったヘルパーの数もついに減少に転じた。現在訪問介護に携わっているヘルパーの多くが年齢の高い層で引退が相次いでいることに加え、他産業の賃上げ化進んだせいで介護職から他産業に人材が流れているためだ。
今のヘルパーの数が維持できている場合でも2040年には57万人の介護士不足がでることが想定されている。

さらに、令和6年度の介護保険の法改正で訪問介護の基本報酬が引き下げられた。他の業態よりも訪問介護事業のほうが利益率が高いといったデータが引き下げの根拠となっている。ただし、この数字には同じ建物内の居住者にサービスを提供しているサービス付き高齢者住宅(サ高住)なども含まれたものだ。
一件一件利用者宅を訪問する訪問介護と、住居型の集住住居の訪問介護が統計上区別されていない。しかも、同一建物の利用者へのヘルパー派遣には基本報酬の減算が適応されているが、それでも利益率が高いのだ。

また、都心部は利用者が近隣地域に住んでおり、移動時間が短く一人のヘルパーが多くの利用者宅を回ることができるが、地方ではそうはいかない。都市部では自転車で訪問することが多いが、地方では車でないと移動自体が困難だ。ガソリン代の高騰なども経営の悪化に影響しているという。

地方において訪問介護事業他を提供する事業者には別途、特別地域加算や中山間地域等小規模事業所加算、中山間地域等居住者サービス提供加算が算定可能となっている。これは、中山間地域等に居住する要介護者に対する介護サービスの提供に係る交通費や移動の時間等を評価するための加算である。令和6年度の介護報酬改定では、中山間地域等に過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法の規定を適用する地域等が含まれることが明確化された。
しかしながら、地方の訪問介護事業者の撤退が相次ぐ現状を見ると、法制度が目的通りに機能していないことは明らかだろう。介護崩壊とも言われている。

一方、今年に入り1月9日に『第1回「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会』が開催された。2027年の介護保険法の時期改正に向けた議論が本格的にスタートした。
この検討会で示された資料を見ると、日本全国では2040年委高齢者人口がピークに達するとしているものの、地域によっては今年がピークであったり、既にピークアウトしているところもあることが示されている。場所によって抱えている問題がかなり違ってきているといった実態が把握されている。

介護保険の維持のため働く世代の保険料をこれ以上上げて可処分所得をさらに引き下げるような政策は難しいだろうし、介護保険制度の崩壊は逆に、働く世代の介護離職といった深刻な問題を引き起こしてしまう可能性がある。

なかなか厳しい時代で、こうすればよい、といった明確な策はないが、社会保障の最前線で働く私たち介護職も、日々の仕事に追われるだけではなく、現状や政策など世の中の動向を注視してゆく必要があると思う。

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