
2025年11月5日に開催された「財政制度等審議会 財政制度分科会」で財務省が提出した「財政総論」と題された資料は、日本経済の現状と今後の財政運営の基本方針を示すものです。今回の記事ではこの内容をお伝えします。
現在の日本の現状を示す資料となっているため、今後の制度改正にも大きな影響を与えることが予想されます。
開催の概要と趣旨
資料の主な趣旨は、以下の2点を両立させることの重要性を強調しています。
- 「強い経済」の構築: 人口減少・供給制約の下、イノベーション、資本、労働を強化し、持続的な経済成長を実現すること。
- 財政健全化の実現: 経済再生を前提としつつ、財政に対する市場からの信認を確実なものとし、財政を持続可能なものにすること。
この両立を実現するために、重点分野(防衛、子ども、GX、AI・半導体など)への戦略的な投資を行うと同時に、社会保障制度改革を含む歳出構造の平時化を進める必要性が示されています。
資料の要約と概説(財政総論のポイント)
本資料の概説は、日本経済が「新たなステージに移行しつつある」という認識のもと、経済・物価動向、財政健全化、今後の財政運営の考え方が示されています。
1. 経済・物価の現状と課題
- 経済状況: 名目・実質GDPは過去最高水準にあり、物価は上昇傾向が続いています。
- 供給制約: 経済は供給制約に直面しており、GDPギャップはプラス(需要超過)となっています。このため、今後は需要を追加するのではなく、生産性・資本・労働力といった供給力を強化する政策が求められています。
- 労働力の逼迫: 労働供給が上限に近づいており、人手不足による倒産も増加傾向にあります。
2. 財政健全化の喫緊の課題
- 金利上昇リスク: 今後、金利が上昇した場合、国債の利払費が大幅に増加するリスクが指摘されています。例えば、金利が想定より1%上昇した場合、利払費は2025年度の10.5兆円から、2034年度には34.4兆円にまで膨らみ、これは社会保障関係費(2025年度で38兆円)に匹敵する水準となります。
- 財政余力の確保: 過去、金融危機や自然災害などの「有事」が発生するたびに、国の債務残高対GDP比が非連続に大きく上昇してきました。今後も想定外の有事が発生した場合に備え、財政に対する信認を確保し、必要となる財政措置を講じるためにも、債務残高対GDP比を安定的に引き下げて「財政余力」を確保することが極めて重要とされています。
3. 介護・福祉に関わる社会保障改革の方向性
社会保障制度に関する記述は、介護福祉系の仕事に携わる人にとって最も重要なポイントです。資料では、現役世代の負担抑制が最優先課題としています。
経済の好循環(賃金上昇、個人消費増加)を実現し、安心・安全な社会の基盤を維持するためには、「持続可能な社会保障制度の構築」が必要とされています。
特に、予算編成においては、社会保障制度改革に取り組み、「現役世代の社会保険料負担を最大限抑制することが重要」と明確に述べられています。これは、過去30年間の家計可処分所得の変動要因を見ると、社会保険料負担の増加が可処分所得の増加をほとんど相殺してしまっている、という分析結果に基づくものです。
具体的な改革内容として、以下の内容が示唆されています。
持続的な社会保障制度を築くための具体策として、「医療・介護の給付と負担の改革」が明記されています。現役世代の納得感を得て、世代間扶養や社会的連帯を支える制度の持続可能性を確保するため、給付と負担の両面から改革を推進していく方針が読み取れます。
まとめ
この資料は、単に財政の現状を報告するだけでなく、物価上昇と人手不足(供給制約)の経済下で、いかに「強い経済」と「財政健全化」を両立させるかという、日本の根幹に関わる課題を示しています。
そして、その両立の道筋において、「現役世代の社会保険料負担の抑制」と「医療・介護の給付と負担の改革」が、今後の予算編成における最重要テーマの一つとして位置づけられていることが分かります。介護・福祉分野の関係者は、今後の社会保障制度改革の議論が、この「給付と負担の改革」を軸に進んでいくことを念頭に置き、動向を注視していく必要があります。



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