
前回に引き続き、2025年11月5日に開催された財政制度等審議会 財政制度分科会の資料より、今回は「地方財政(資料2)」の要点と概説をまとめ、解説します。
開催の概要と資料の趣旨
この「地方財政」資料は、日本の経済構造の変化に伴い、地方財政が直面している構造的な課題と、今後の地方財政運営の方向性を示すものです。
資料の主な趣旨は、以下の2つの大きな課題を解決し、全国どこでも一定水準の行政サービスを提供し続ける体制を確立することにあります。
- 「都市と地方の財政力格差の是正」: 大都市への税収集中を是正し、地域間の財政力と行政サービスの格差拡大を抑制すること。
- 「地方行政の効率化とサービス維持」: 人口減少による担い手不足が避けられない中で、少ない職員数でも質の高い行政サービス(福祉含む)を安定的に提供するための仕組みを構築すること。
特に、令和7年度は、これまでの地方の財源不足を補ってきた臨時財政対策債の発行が初めてゼロになるなど、地方財政が新たな局面に入ったことが強調されています。
資料の要約と概説(地方財政のポイント)
本資料で示された課題は、介護・福祉サービス提供の「現場」に直結する重要な内容です。
1. 深刻化する「地域間の財政力・行政サービス格差」
経済社会構造の変化により、法人税などの税収が大都市、特に東京都に集中する構造が続いています。
- 不交付団体の優位性: 東京都のような不交付団体(地方交付税を受け取らない財政力の強い自治体)は、税収が増加した場合、その増収分をすべて活用することができます。
- サービス格差の拡大: これを背景に、東京都は「高校授業料の実質無償化」「公立学校給食費の無償化」「0~2歳児の保育料無償化」「こども医療費助成の拡充」といった独自の大型施策を次々と打ち出しており、周辺自治体との間で行政サービスの内容に看過しがたい水準の格差が拡大していると指摘されています。
- 格差が招く一極集中: この財政力に基づくサービス格差は、若年層をはじめとする東京都への更なる人口集中を加速させ、地方部での人材確保を一層困難にするとともに、地域の活力低下を招くおそれが指摘されています。
地方財政の運営においては、この格差拡大を抑制するため、地方税源の偏在是正、すなわち「都市と地方の支え合いの確保」に一層取り組むことが重要とされています。
2. 地方行政の効率化(福祉サービスの安定提供に向けて)
人口減少と地域社会の担い手不足は、介護・福祉といった住民サービスに大きな影を落とします。今後、より少ない職員数で質の高い行政サービスを安定的に提供するための方策が示されました。
- 自治体DXの徹底推進: 業務の合理化・効率化を徹底するため、自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)を一層推進する必要があります。
- AI・RPAの活用と横展開: AIやRPA(ロボットによる業務自動化)の活用は年々増加しており、実際に保育園受付窓口業務などで業務時間の大幅な削減(年間2,090時間削減の事例も)といった高い効率化効果が出ています。こうした好事例を全国に横展開し、業務効率化の効果を定量的に把握し、地方財政計画に適切に反映していくべきとされています。
- 歳出効率化の推進: 公共施設の適正管理や、公営企業(特に下水道事業)の広域化・共同化を進めることで、歳出の効率化を図る必要性も示されています。
介護福祉系ブログとしての視点
この資料は、地方自治体が高齢者福祉費(老人福祉費:1.9兆円)や児童福祉費(2.3兆円)など、社会福祉に多額の単独事業費(合計29.2兆円のうち民生費8.5兆円)を支出している現状を踏まえると、非常に重要です。
地方行政の課題は、そのまま福祉の課題
- サービスの地域格差: 財政力の強い自治体が手厚い子育て・高齢者福祉サービスを提供できる一方、地方ではサービスの維持すら困難になる可能性があります。この格差が是正されなければ、介護・福祉サービスの受けやすさ、提供体制の安定性に地域差が生まれ、地方の衰退を加速させる一因となりかねません。
- 職員不足とDX: 介護保険や障害福祉サービスを支える行政職員の数は、今後減少していきます。自治体DXやAI・RPAの導入は、福祉サービスの質の低下を防ぐための「待ったなしの施策」と言えます。現場の事務作業を自動化し、職員が本当に住民に寄り添う業務(地域課題の解決や企画立案)に注力できる環境を作ることは、福祉サービスの持続的な安定提供に不可欠です。
地方財政の健全化と格差是正の議論は、「誰でも、どこに住んでいても、必要な介護・福祉サービスを受けられる社会」の基盤づくりに直結しています。今後の税源偏在是正に向けた具体的な動きと、自治体DXの進捗に注目していく必要があります。



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