
前回、前々回の記事に引き続き、今回は2025年11月5日開催の「財政制度等審議会 財政制度分科会」の資料『社会保障①』について、要点と概説をまとめ解説します。
開催の概要と資料の趣旨
この資料は、前回の資料(財政総論、地方財政)で提起された「現役世代の社会保険料負担の最大限の抑制」という最重要課題を実現するため、社会保障、特に医療・介護産業の「コスト構造」に踏み込んだ改革の方向性を示したものです。
資料の主な趣旨は、以下の2点を両立させることにあります。
- 現役世代の可処分所得(手取り)を拡大: 賃上げの努力が無駄にならないよう、社会保険料負担の増加による可処分所得の抑制を避けること。
- 医療・介護従事者の収入を構造的に増やす: 労働供給制約が強まる中で、就業者数を増やさずに質の高いサービスを提供できる、効率的で持続可能な産業構造へ転換すること。
つまり、今後の社会保障改革は、単なる給付費の抑制ではなく、介護・医療という産業そのものの「生産性向上」と「構造改革」が核となることが明確に示されています。
資料の要約と概説(社会保障①のポイント)
本資料は、介護・福祉の現場で働く方々の「賃金」と、サービスを利用する方々の「負担」に直結する、非常に重要な議論の方向性を示しています。
1. 現役世代の負担抑制と可処分所得の確保
「骨太方針2025」に基づき、改革を通じて「保険料負担の抑制努力を継続する」ことが求められています。その最低限の要請として、「現役世代の保険料負担の増による可処分所得の抑制を回避すること」が強調されました。
これまでの日本経済では、企業が賃上げをしても、その成果が社会保険料の増加によって相殺され、現役世代の手取り(可処分所得)が増えにくい構造でした。この構造を打破するため、保険料負担の抑制と、経済・物価動向を適切に反映した改革を行う必要があるとしています。
2. 介護・医療産業に求められる「構造改革」
資料内で、介護・医療産業の過去30年間における構造的な問題が指摘されています。
- 生産性の停滞: 過去30年間、物価や賃金が停滞する中で、医療費や介護費が増加したにもかかわらず、それが従事者の賃金に十分に還元されていませんでした。
- 就業者数頼みの構造: 効率性(生産性)が伸び悩んだ結果、サービスを維持するために就業者数を増やして対応するというモデルが定着しました。
しかし、少子高齢化が進み、人手不足(労働供給制約)が深刻化する現在、このモデルは維持が不可能です。
【改革の目指す方向性】
- 「より少ない就業者で質の高いサービス」が提供できるよう、効率的で持続可能な産業構造への転換を不可欠としています。
- この改革を通じて、医療・介護従事者「一人当たりの収入を構造的に増やしていく」ことを目指すと明記されています。
これは、介護報酬の議論が、単なる人件費の引き上げだけでなく、テクノロジーの活用、業務の効率化(DX)、多職種連携による生産性の向上といった、産業全体の変革を伴うことを意味しています。
3. 医療保険制度における「公平性の確保」
社会保障の持続可能性を確保するため、負担の公平性についての議論も進められています。特定の業種で構成される国民健康保険組合(国保組合)について、国庫補助(税金による財政支援)の状況が詳細に分析されています。
これは、加入者間の公平な負担を実現するため、市町村国保との比較や、事業主・被保険者ごとの保険料負担のあり方を見直す必要性を示唆しており、今後の国民皆保険制度全体のバランスに影響を与える可能性があります。
まとめ:介護福祉系ブログとしての視点
この資料「社会保障①」は、私たち介護・福祉業界にとって、将来の働き方と処遇に最も影響を与える内容です。
- 賃金上昇は「構造改革」とセット: 単に国に賃上げを要求するだけでなく、自分たちの産業がどう効率化し、生産性を上げるかという課題が突きつけられました。ICT(情報通信技術)やAIの活用による業務効率化は、職員が「より人に寄り添うサービス」に集中し、専門職としての価値を高め、結果として収入を増やすための必須の取り組みとなります。
- 未来の介護は「高生産性・高付加価値」へ: 従来の「マンパワー」に頼る体制から脱却し、高い生産性(効率)で質の高いサービスを提供できる、魅力ある産業構造への転換が、現役世代の負担を増やさずに私たちの未来を支える唯一の道と示されています。
今後の診療報酬改定(2026年度)や介護保険制度改革の議論は、この「効率的で持続可能な産業構造への転換」という大きな旗印の下で進められることになります。現場の視点からも、生産性向上に向けた具体的なアクションが求められています。



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