介護施設・介護事業所の不正件数
2023年度における厚生労働省の調査結果によると、不正行為が発覚した介護施設や介護事業所に対して指定取り消しや停止の処分が行われた件数は合計で139件に達しました。これは前年度の86件から約1.6倍に増加しており、特に介護報酬の不正請求が多く見られました。コロナ禍を挟んだため急増してますが、近年、複数の事業所を展開している介護施設や障害福祉サービスの事業所でも不正による大規模な廃業が目立つようになっており、行政もきめ細かい運営指導の徹底に方針転換しています。
その他の処分理由としては、人員基準違反、虚偽報告、人格尊重義務違反などが挙げられます。また、行政による介護事業所・施設への運営指導件数も前年度比で25%増加し、4万9281件に達しました。
このような状況を受けて、厚生労働省は自治体に対し、サービスの質の向上を目指した指導を行うことや、不正行為に対して厳正に対処することを求めています。
行政による運営指導
介護施設や介護事業所、障害福祉サービス事業所は都道府県による指定を受けて初めて介護給付を受けることができます。介護保険や障害福祉サービスは、保険料や税金などから支払われるため、運営基準を満たして初めて報酬額を請求することができるのです。指定を受けたら終わり、なのではなく、毎回の支援ごとや毎月、基準によっては毎年、運営基準を満たす必要があります。
実は、基準を満たしていなくても、介護報酬を請求することはできてしまいます。記録を不正に作成して、やってもいないサービスをやったこととして請求することもできてしまうのです。また、基本的な基準に上乗せして様々な取り組みをすることによって得られる加算という仕組みもあります。これらの加算も、申請時に算定要件を満たしている必要がありますが、加算の取得後は算定要件を満たしていなくても請求できてしまいます。
このように、運営基準が趣旨通り守れているのか、また、加算の要件が満たされているのかを確認するため、基本的に6年ごとに行政による確認が行われます。6年というのは、指定の更新が6年ごとであるためです。しかし、現実には6年ごとに実施されるべき運営指導ができていないこともあり、不正が見過ごされたまま、または運営基準や加算の算定要件を理解しないまま請求してしまうことも多々あり、問題視されています。
不正請求と不正が発覚する理由
不正請求とは、①記録をでっち上げて架空のサービス費用をごまかして請求すること、に加えて、②加算の要件を満たしていないにもかかわらず満たしているとして請求すること、③要件を満たしていないため減算しなければいけないところを満額で請求すること、の3つがあります。
これらの不正が発覚する理由として、行政による運営指導の際に不正が確認されることに加えて、利用者や事業所職員からの通報によるものがあります。
介護という仕事のイメージ向上
介護業界以外でも、不祥事が発覚して企業の存続が危ぶまれる事態に発展してしまう事例も後を経ちません。今は「コンプライアンス」が重要視される時代です。企業の大小に関わらず、法令遵守や企業倫理、社会規範への順守が求められます。
小規模の事業所が多いとされる訪問介護事業所においても、小さな事業所だからといってワンマンな社長が威圧的に振る舞うことは許されません。コンプライアンスが果たせない事業所は今の時代、淘汰されてゆくべきだと思います。コンプライアンスの感覚に乏しい企業や法人の存在は、その企業だけの問題ではなく、利用者にとっても職員にとっても、また、業界全体にとってもマイナスでしかありません。
介護という仕事に対するイメージの向上は、なにも国や行政ばかりが取り組む課題なのではなく、そこで働く私たち全てが意識的にならなければいけない日々の積み重ねだと思うのです。

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