
近年、ニュースでランサムウェアによる被害が頻繁に報道されています。特に、利用者様の機密性の高い個人情報を取り扱う介護施設や障害福祉サービス事業所において、情報セキュリティ対策は、もはや「やっておけば安心」ではなく、「事業継続のために不可欠な義務」となっています。
今回は、大企業のような専門のIT部門がない中小規模の介護福祉系の法人・事業所でも、すぐに取り組める必須の情報セキュリティ対策について、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)のガイドラインなどを参考に、分かりやすく解説します。
1. なぜ今、介護・福祉事業所でセキュリティ対策が必須なのか?
介護福祉の現場では、氏名、住所はもちろん、病歴、服薬情報、生活状況など、機密性の高い個人情報を大量に取り扱っています。これらの情報が漏えい・紛失した場合、事業所が被るリスクは計り知れません。
脅威1: ランサムウェアによる事業停止と高額な費用
サイバー攻撃の中でも特に深刻なのが「ランサムウェア」です。システムやファイルが暗号化され、身代金(ランサム)を要求されます。
- 事業停止:システムが使えなくなり、業務が完全にストップします。ある事例では、ランサムウェア感染により、サーバー上のファイルが暗号化され、復旧作業のために時間と費用を費やすことになりました。
- 情報漏えいのリスク:ファイルを暗号化するだけでなく、情報を盗み出してから暗号化する手口も増えており、利用者様の情報が流出する危険性が高まります。
脅威2: 法令遵守違反による信用失墜と責任
介護福祉事業者は、個人情報保護法やマイナンバー法に基づき、個人情報を安全に管理する義務(安全管理措置)を負っています。
- 顧客の喪失:情報漏えい事故が発生すれば、利用者様やご家族の信頼を失い、事業の継続が困難になる可能性があります。
- 法的責任:個人情報保護法に違反した場合、個人情報保護委員会による報告・立ち入り検査の責任を負うほか、悪質なケースでは罰則が科される可能性もあります。
2. 規模に関わらず、まず始めるべき「情報セキュリティ5か条」
IPAのガイドラインでは、企業の規模に関わらず必ず実行すべき重要な対策として「情報セキュリティ5か条」を提唱しています。まずはここから取り組みましょう。
| 対策項目 | なぜ必要か? | すぐできること! |
|---|---|---|
| 1. OSやソフトウェアは常に最新の状態に! | 古いまま放置すると、セキュリティ上の問題点(脆弱性)が解決されず、それを悪用したウイルスに感染する危険があります。 | 自動更新をONにする。使用しない機器もたまには起動して更新する。 |
| 2. ウイルス対策ソフトを導入しよう! | ID・パスワードを盗んだり、ファイルを勝手に暗号化するウイルスが増えています。 | 対策ソフトを導入し、定義ファイルを常に最新の状態にする。 |
| 3. パスワードを強化しよう! | パスワードが推測されたり、他のサービスから流出したパスワードを使い回されたりして、不正ログインされる被害が増えています。 | 「長く」「複雑に」、そして「使い回さない」ようにする。二段階認証の利用も検討する。 |
| 4. 共有設定を見直そう! | データ保管サービスや複合機などの共有設定を間違えたために、無関係な人に情報を覗き見られるトラブルがあります。 | 誰が、どこまで情報にアクセスできるか(アクセス権限)を定期的に見直し、不必要な共有設定を解除する。 |
| 5. 脅威や攻撃の手口を知ろう! | 取引先を装ったメールや、正規サイトに似せた偽サイトなど、巧妙な手口が増えています。 | 経営者や従業員向けに、定期的にセキュリティ教育を実施し、最新の脅威(例:不審なメール)の情報を共有する。 |
3. 経営層・管理者が果たすべき役割
情報セキュリティ対策は、現場任せにしていては機能しません。経営者が率先して取り組みの明確な方針を示し、組織的に実施していく必要があります。
- リーダーシップの発揮と方針決定:経営者がセキュリティ対策の重要性を認識し、予算の確保や管理体制の構築を決定します。
- 現状の把握(自社診断):「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」(IPAのガイドライン付録3)のようなチェックシートを活用し、自社の対策の状況を把握し、できていない対策の実行に努めます。
- 従業員への周知徹底:決定した対策(情報セキュリティ基本方針やハンドブック)を参考に具体的なルールを定め、全従業員に教育・周知します。
情報セキュリティ対策は、一度やれば終わりではありません。利用者様の命と生活を守るための大切な情報資産を守るために、事業所の規模に関わらず、継続的に対策を改善・強化していくことが最も重要です。



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