
高齢や障害を理由に生活に支援が必要になったとき、「介護保険」と「障害福祉サービス」という二つの大きな制度が私たちの生活を支えてくれます。しかし、これらの制度は根拠となる法律、サービス利用の考え方、そして提供される具体的な内容において明確な違いがあります。
今回は、それぞれの制度を成り立たせている背景から、代表的なサービスの違いまでを、専門用語も交えながらわかりやすく深掘りして解説します。
1. 制度の根幹:法律と目的の違い
両制度の違いを理解する上で、最も重要なのが根拠法と制度の目的です。
根拠法と対象者
| 項目 | 介護保険サービス | 障害福祉サービス |
| 根拠法 | 介護保険法 | 障害者総合支援法 |
| 制度の目的 | 高齢者の自立した日常生活を支援し、介護者の負担軽減を図ること。社会全体で介護を支える相互扶助の仕組み。 | 障害者が地域社会で基本的人権を享有し、社会の構成員として活動できること(社会モデル)。自立した生活を支援すること。 |
| 対象者 | 65歳以上の要介護・要支援認定者。または40~64歳で特定疾病により要介護認定を受けた方。 | 年齢制限なし。身体、知的、精神の障害者や難病患者で、障害者手帳を所持または一定の条件を満たす方。 |
介護保険が**「老い」に伴う生活の困難を、社会全体で支える保険の仕組みであるのに対し、障害福祉は「障害」によって生じる社会との障壁を取り除くことを目的とした福祉の仕組み**であると言えます。
2. 入所・居住系サービス:生活の場としての役割の違い
長期間、施設や住居で生活するサービスでは、その目的と提供される介護・支援の内容に大きな差があります。
🏠 介護保険の施設系サービス(例:特別養護老人ホーム)
特別養護老人ホーム(特養)などの施設は、要介護度が高く、自宅での生活が困難になった高齢者を対象としています。
- 実態と役割: 終の棲家としての役割を担うことが多く、入所後は基本的にその施設が生活の中心となります。提供されるのは、入浴・排泄・食事などの日常生活全般にわたる介護と機能訓練です。医療連携も行われますが、あくまで生活施設であり、病院ではありません。
🏘️ 障害福祉の共同生活援助(グループホーム)
障害福祉におけるグループホームは、地域社会での自立生活を支えるための「住まい」です。
- 実態と役割: 施設ではなく、あくまでアパートや一軒家に近い共同生活住居です。日中は作業所や就労先へ通うことが前提であり、夜間や休日に生活相談や入浴などの援助(世話人による支援)を受けます。「地域での暮らし」を実現することが目的であり、重度の介護が必要な方向けの「施設」とは明確に位置づけが異なります。
3. 通所・日中活動系サービス:目的と工賃・報酬の違い
日中に自宅外で過ごすサービスは、特に「活動」への関わり方が大きく異なります。
🌞 介護保険の通所介護(デイサービス)
- 目的: 利用者の心身機能の維持向上、社会的な孤立感の解消、そして家族介護者の負担軽減(レスパイト)に重きが置かれています。
- 実態: 午前中から夕方まで施設で過ごし、食事や入浴の介助、レクリエーションが提供されます。報酬として工賃が支払われることはありません。
🧑🔧 障害福祉の就労支援・生活介護
障害福祉サービスは、「生産活動」や「働くこと」、「能力向上」に強い目的を持ちます。
- 就労継続支援(A型・B型):
- A型(雇用型): 利用者と事業者が雇用契約を結びます。原則として最低賃金以上の賃金が支払われ、一般就労に近い形で働きます。
- B型(非雇用型): 雇用契約を結ばず、作業訓練の場として利用されます。支払われるのは「工賃」であり、賃金ではないため、最低賃金は保証されません。生産活動への参加を通じた社会参加が目的です。
- 生活介護:
- 目的: 障害支援区分が重い方など、常に介護が必要な方に、日中の活動の場と介護を提供します。創作活動や生産活動も行われますが、目的は能力の維持・向上と社会との接点確保です。
4. 制度運営と費用の違い
制度の運営主体と費用の考え方にも、構造的な違いがあります。
| 項目 | 介護保険サービス | 障害福祉サービス |
| 保険料 | あり(40歳以上から徴収) | なし(税金が主な財源) |
| 費用負担 | 原則1割(所得に応じて2割または3割)の利用者負担。 | 原則1割の利用者負担。ただし、所得に応じて上限額(負担上限月額)が設定されている。 |
| 利用までの流れ | 市町村に申請し、要介護認定を受ける。 | 市町村に申請し、障害支援区分の認定とサービス等利用計画の作成を行う。 |
障害福祉サービスにおける「負担上限月額」の仕組みは、どれだけサービスを利用しても世帯の所得に応じた上限額以上の負担が発生しないように設計されており、経済的な自立支援を強く意識した制度設計となっています。
まとめ:制度の理念の違いがサービスの形を決める
介護保険と障害福祉サービスは、どちらも「自助と共助」の理念に基づきながらも、
- 介護保険: 高齢による生活機能の低下を「保険」で支え、QOL(生活の質)の維持・回復を目指す。
- 障害福祉: 障害による社会生活上の障壁を「福祉」で取り除き、地域での自立と社会参加を最大限に保障する。



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