
日本のケアマネジャーは「民間企業の社員でありながら、公金を差配する」というハイブリッドな役割を担っています。しかし、世界に目を向けると、その「権限」と「身分」の切り分け方は国によって大きく異なります。
主な欧州諸国のモデルと日本を比較してみましょう。特に「公金の管理」という視点から、北欧やイギリス、ドイツなどの体制と比較しながら、日本のケアマネジャーが抱える課題の正体を深掘りします。
海外の事例と比較すると、日本のケアマネジメント体制がいかに「独自の進化(あるいは特異な形)」を遂げているかがより鮮明になります。
1. 北欧・イギリス型:徹底した「公務員モデル」
スウェーデンやデンマークなどの北欧諸国、およびイギリスでは、ケアマネジメント(アセスメント)は基本的に「地方自治体の公務員」の仕事です。
- 役割の分離: サービスの「決定(アセスメント)」と「提供」を完全に分離しています。
- 権限の根拠: 予算を動かすのは公務員(ソーシャルワーカーなど)であり、彼らは「行政官」として、公平にリソースを配分する役割を担います。
- メリット: 「自社サービスへの誘導」といった利益相反が構造的に起こりません。
【ここが日本と違う】
日本ではケアマネジャーが「サービス提供事業所」に所属することが認められていますが、北欧などでは「判定者」と「事業者」が同じ組織にいることは、公金管理の観点から許容されないケースが一般的です。
2. ドイツ型:保険者による「中立的な相談モデル」
日本が介護保険制度を導入する際にモデルとしたドイツでは、少し異なるアプローチをとっています。
- Pflegestützpunkte(ケアサポート拠点): 介護保険基金(保険者)や自治体が共同で運営する相談窓口が中心的な役割を果たします。
- 中立性の担保: 特定の営利企業に偏らないよう、公的な枠組みの中で相談やプランニングが行われます。
- 現金給付の選択肢: ドイツは「家族介護への現金給付」が多いため、日本ほど緻密な「サービス利用計画書(ケアプラン)」による現物給付の管理をケアマネが担う比重は低くなっています。
3. 日本・欧州の比較まとめ
| 比較項目 | 日本 | 北欧・イギリス | ドイツ |
| 主な身分 | 民間企業の社員(大半) | 地方自治体の公務員 | 保険者・自治体等の職員 |
| 決定権限 | 非常に強い(実質的決定) | 強い(行政処分として決定) | 中程度(相談・調整が主) |
| 利益相反 | 起こりやすい(併設型多いため) | 起こらない(構造的に分離) | 起こりにくい(公的拠点が主) |
| 財源 | 介護保険(義務的経費) | 税(一般財源) | 介護保険(義務的経費) |
4. なぜ日本は「民間ケアマネ」を選んだのか?
日本が現在の形を選んだ背景には、当時の「行政のスリム化」と「民間活力の導入」という大きな流れがありました。
- 措置から契約へ: 行政がすべてを決める「措置」時代への反省から、利用者が自由にサービスを選べる「契約」への転換を目指した。
- 機動力の確保: 公務員を増やすのではなく、民間の専門職を増やすことで、急速な高齢化にスピード感を持って対応しようとした。
結論:日本型モデルが直面している「限界」
欧州のモデルと比較して見えてくるのは、日本のケアマネジャーが「民間人の身分で、公務員並みの公金管理責任を負わされている」というアンバランスな状況です。
「義務的経費を担う主体として民間ケアマネで良いのか」という議論は、単なる倫理観の問題ではなく、「制度設計として、彼らに背負わせている荷物が重すぎるのではないか」という問いでもあります。
今後、日本がとるべき道は、ケアマネを公務員化することでしょうか? それとも、北欧のように「判定」と「提供」をより厳格に分離することでしょうか? 令和9年度改正以降の大きな論点となることは間違いありません。



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